これまで「ブラックホール」と認識されていたものは、実はワームホールだったかもしれないという説が浮上しています。
ワームホールとは、別の時空に移動するための通路です。
支持を得ている最近の研究によれば、そのワームホールがこの宇宙にたくさん存在するというのです。
今回は、この話の実態を探っていきましょう。
ブラックホール、実はワームホール?
「パラレルワールド」として知られる、並行して存在する別の時空は、ワームホールを通じて繋がっていると言われています。
仮にワームホールを見つけて通過することができれば、パラレルワールドに行くことができるというのです。
一般的に恐怖でしかなかったブラックホールの存在とは対照的に、夢が膨らむワームホールという存在ですが、最近の研究では新たな事実が判明しています。
何と、天の川銀河の中心にあると考えられてきたブラックホールが、実はワームホールなのではないかと指摘されているのです。
ワームホールの“向こう側”にある恒星の重力が、この宇宙に影響を及ぼしていることになります。
1974年に発見された「いて座エースター」は天の川銀河の中心に位置する明るく小規模な天文電波源であり、その中央には超大質量ブラックホールが存在すると考えられています。
太陽系から2万6000光年離れた場所にあるこの超大質量ブラックホールですが、興味深いことに天体物理学者の一部によれば、この超大質量ブラックホールについて、実際にはワームホールである可能性があると示唆しています。
もしそうであれば、これまで天文学者によって特定されてきた他のブラックホールもワームホールであると言えるかもしれません。
となれば、この宇宙は他の時空に繋がる“トンネル”に満ち溢れていることになります。
しかし、いて座エースターのブラックホールと考えられていたものが、うってかわってワームホールであると主張する根拠はどう考えられているのでしょうか。
アメリカ・バッファロー大学と中国・揚州(ようしゅう)大学の共同研究によると、いて座エースター付近の恒星の異常な動きは、もはやブラックホールのものではないといいます。
その代わりに、ワームホールと別のパラレルワールドの恒星の重力によって、この空間に影響を及ぼしていると考えることで説明がつくとのことです。
超大質量ブラックホールもワームホールである可能性
さらに昨年11月に発表された新しい研究では、超大質量ブラックホールと思われていたものがそうではなく、実際にはワームホールのゲートであることを示唆しています。
ワームホールの内部で衝突が発生するとガンマ線を放出する可能性があり、その放射は超大質量ブラックホールによって 放出されるものとは異なります。
もし ガンマ線を観測することができれば、それらが実際に宇宙全体に散らばっている時空トンネル、すなわちワームホールだということを示す証拠になるのです。
既に巨大ブラックホール自体は いくつも発見されていますが、それらすべてにワームホール理論が当てはまるというのは想像しがたいことでしょう。
ただし、それは 今後10年で確認できるようになるともいわれています。
ブラックホールは “別の宇宙” への扉?
最新の研究によると、私たちの宇宙は、別の巨大宇宙にあるブラックホールの内部に埋め込まれており、入れ子構造である可能性が高いといいます。
同様に、私たちの宇宙のブラックホールも、極小サイズから大質量のものまで すべて“別世界”につながる出入り口である可能性があります。
つまり、ここでもブラックホールは 宇宙と宇宙の間を繋ぐ通路、つまり時空の高速移動を可能にする ワームホールの一種ということになります。
また、ブラックホールに吸い付けられた物体は中心(特異点)で押しつぶされるというのが通説ですが、ブラックホールの反対側に“ホワイトホール”を仮定し、そこからあふれ出ていくと考えているようです。
アインシュタインのパラドックスをも解消?
この研究を行った物理学者ポプラウスキー氏は、「ブラックホールに入り込んでいく物質のらせん運動について 新しいモデルを提示した」と説明しています。
アインシュタインがブラックホールの中央にあると予想していた「時空特異点」の代替的な存在として、同氏の方程式が示す ワームホールが存在する可能性は 申し分ないということです。
アインシュタイン理論は、さまざまな方面から得られた間接的な証拠によって 支持されていますが、現在の科学者を悩ませる 最大のパラドックスを抱えた難問としても知られています。
しかし ポプラウスキー氏の考えが正しければ、こうした特異点説を受け入れる必要自体がなくなるのです。
「ブラックホールをワームホールとすることで、現在ある宇宙論の謎を幾らか解明できる可能性を秘めている」とポプラウスキー氏は話しています。
ワームホール説を検証することは可能
ポプラウスキー氏の理論は検証可能なのでしょうか?同氏は方法が少なくとも1つあると主張します。
ブラックホールには回転しているタイプがあり、回転するブラックホールの内部でこの宇宙自体が発生したとすれば、私たちも“生みの親”の回転を受け継いでいると考えてもおかしくないのです。
「将来、私たちの住む宇宙が予測可能な向きで回っているとわかれば、ワームホール説を支持する証拠の1つとなる」とポプラウスキー氏は話します。
標準的な物理学モデルに基づくと、ビッグバン以降、この宇宙の曲率は 時間の経過とともに増大しているはずです。
つまり、大きさに限りはあるものの、“果て”はないということです。
これまでの観測結果によると、この宇宙はどこを見渡しても平坦なようで、この不思議はビッグバン理論において「平坦性問題」と呼ばれています。
また、ごく初期の宇宙で誕生した光を分析したデータにより、ビッグバン直後の物質は すべてが ほぼ同じ温度だったことがわかっています。
「宇宙の地平線」の両端にあり相互に作用したはずのない天体が、なぜ一様の性質を持つのでしょうか。
この謎は「地平線問題」と呼ばれています。
宇宙インフレーション理論
このような矛盾点を説明するため、「宇宙のインフレーション」という概念が考案されました。
この理論では、宇宙の誕生直後、指数関数的に光よりも速く膨張したと考えられています。
インフレーションが進み、宇宙は原子よりもさらに小さい寸法から 瞬く間に天文学的な大きさに広がっていきました。
そして、この理論が宇宙の地平線問題と平坦さの問題を一挙に解決したのです。
ただし、インフレーションが実際にあったとしても、そのきっかけについて専門家たちは説明に苦戦しています。
そこで、新たなワームホール説が登場します。
新しいワームホール説
一部のインフレーション理論では、実在しない理論上の「エキゾチック物質」を想定しています。
重量に応じて引き寄せるのではなく、寄せ付けない負の性質を帯びているものです。
ポプラウスキー氏は、「ワームホールを形成するエキゾチック物質とインフレーションの理由となったエキゾチック物質の間には、なんらかの関係がある」と考えているようです。
ポプラウスキー氏よりも前に、同じ理論の可能性を指摘していたアリゾナ州立大学の理論物理学者は次のように話しています。
「彼の研究はブラックホールが宇宙と宇宙の出入り口となる具体的な解を見出した点で私たちの研究よりも進歩しており、素粒子レベルを扱う量子重力の研究が今後進めば、この方程式も研ぎ澄まされ、ワームホール説が支持できるか棄却されるか判断できるようになるのではないか」と語っています。
もしブラックホールがワームホールであると確認できた場合、科学と天文学における劇的な概念変化がもたらされることになります。将来の宇宙旅行でパラレルワールドに行くことが可能になるとすれば、夢は膨らむばかりかもしれません。
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