ロボットが戦場で活躍する未来を描いた作品は数多くありますが、それが単なるSFでなくなる日は意外に近いのかもしれません。
皆さんは、今月フランス軍が実施した軍事演習に、ボストンダイナミクス社の“犬型ロボット”が採用されたニュースをご存知でしょうか?
これまで自社製品の武装を否定し、犬型ロボットの武器としての利用を禁じているボストンダイナミクス社は軍事に関与する犬型ロボットをどう判断していくのか、今回はその背景とロボットの軍事利用の最先端に 迫ります。
フランス軍の演習で犬型ロボットの任務とは?
フランス軍が実施した軍事演習にボストンダイナミクス社の犬型ロボットが兵士と共同作業を披露しました。
演習で課された任務は“偵察”とみられていますが、海外メディアは将来的な使い道について懸念があるといいます。
その光景はフランスの代表的な士官学校のサン・シール陸軍士官学校がSNSでシェアしたものでした。
この演習はあくまで「将来の課題に対する生徒の意識を高める」ためのもので、「戦場での標準化」の意味合いはごく一部だと強調されています。
ボストンダイナミクス社も使用を認知、軍学校での自社ロボット利用
フランスの新聞社によると、本演習での犬型ロボットの登用は、あくまで将来の戦場におけるロボットの利用可能性を図るためであり、使用されたモデルはサンシール陸軍士官学校と同エリアの別の軍学校の学生がテストに使う複数のロボットのうちの一つとして採用されていました。
この件についてボストンダイナミクス社の事業開発担当者は次のように語っています。
「そのロボットは欧州の販売代理会社による供給であり、アメリカの企業はこういった使用に関する報告を受けていません。
この取り組みの正確な把握はできていないままです」
ロボットに救われた兵士
フランスの新聞社は他にも、2日にわたるシミュレーション訓練中に兵士に課された様々なシナリオにおいての攻撃作戦が実行されたと報じています。
各シナリオではまず人間のみを使用し、次に人とロボットを一緒に使用する順番でロボットの効果が確認されました。
その結果、ロボットは作戦スケジュールを少々狂わせたものの、軍隊の安全確保に役立ったとのことで、ある兵士は次のように述べています。
「ロボット投入前のシミュレーション戦で私は命を奪われました。でも最初にロボットに偵察させるシナリオでは死なずに済みました」
また、兵士たちは、演習中に動けなくなった犬型ロボットを運び出すアクシデントついても語っています。
電池が尽きればただの邪魔者になり、充電時間が必要になる点が難点であった犬型ロボットが実際どのような役を担っていたかは不明ですが、地元メディアは“偵察”に使用されたのではないかと推測しています。
小学生1人分程の重さの犬型ロボットは搭載カメラで遠隔操作が可能で、4本足で他のロボットには困難な地形も先導することができます。
その特長はこれまでも建設現場や岩場など、多様な環境での遠隔調査に役立ってきた実力があります。
他のハイテクマシンと犬型ロボットの棲み分け
演習では他にも、各国複数の企業による陸上に特化したマシンが、計画されたシナリオに沿ってその機能を披露する機会もあったようです。
ボストンダイナミクス社は米軍向けロボットの開発に長らく携わってきましたが、市場の方向性の検討に伴い、軍事関係から遠ざかるようになったといわれています。
同社の犬型ロボットはアメリカの警察の運用試験を受けてはいますが、ボストンダイナミクス社は常に自社の製品が軍事的に悪用されることは断じて承知しないと強調してきました。
その点について同社開発担当者も「私たちは顧客がロボットで人に危害を加えることなど決して望んでいません」と明言しています。
「人に危害を加えるか否か」が焦点となる犬型ロボットの実用化
ボストンダイナミクス社の犬型ロボットの利用ルールを設けており「危害を加えるため、または人や動物を威嚇する目的で武器または武器のように使用すること」を禁じています。
しかしこのような規約でも、軍も兵士の「偵察」が目的である場合にはこの規約に反していない、と主張できてしまいそうです。むしろ軍事的関与との関連を疑われた際の逃げ道とみなされる可能性もあります。
ボストンダイナミクス社の開発担当者はとあるメディアのインタビューに対し、軍の顧客による運用においても「兵器ではない形」での利用については「現在検討中」と回答しています。
加えて、次のように語りました。「軍隊が最新のロボット技術で人を危害から遠ざける限りにおいては、現代技術の有効活用として批判の余地がないものと考えます。
いずれの利用についても、人に危害を加えるか否かの判断が必要なため、その点をよく理解する必要があります」
研究者を含む多くの人々からの反対や懸念をよそに、世界中の軍隊が戦場にロボット導入を前向きに実行している現実があります。
近年最も注目されているのは遠隔操作ができるドローンの軍事的投入ですが、今は偵察用や監視用ロボットのテストも進んでいます。
フランス地元メディアによると、現在米軍は固定監視カメラの代わりに、ボストンダイナミクス社の競合、“ゴーストロボティクス社”が開発した四本足ロボットのテストを行っているといいます。
ロボットが移動式の監視カメラとして申し分無く使えるとなれば、戦場に導入される日も近いかもしれません。
イギリス軍、2030年代までに4分の1をロボット兵に?!
ロボットの導入に前向きなのはフランスだけではありません。
今月、イギリスの国防参謀長は2030年頃までに「ロボット兵」が英国陸軍の25%、約3万人分を担う予定があることを発表し「ロボット兵が戦争をする未来」がそう遠くないことを示唆しました。
これを語ったのはイギリス国防参謀長の現役将軍で、イギリスのテレビインタビューでこのように発言しています。
自律型または遠隔制御型の機械がイギリス軍の主要な部分を補い、最前線付近で人間の兵士との共同作業を想定しているようです。
また、この件について費用面についても「非常に建設的な方法で進んでいる」とも話しています。
数年間採用に苦戦していたイギリス陸軍?!
ここ数年間は、イギリスの陸軍の採用が苦戦していたのをご存知でしょうか?現在、73,870人が訓練中ですが、その人数は目標の82,050人を大幅に下回っている状況です。
今後5年の間には、更にその目標数が削減されて75,000人になると予想されており、兵士不足というギャップを埋めるためにも、ロボット兵士という新たなテクノロジーの使用検討が欠かせなかったのです。
現在既に、イギリス全ての軍隊が小型ドローンや遠隔動力の陸上または水上車両を含む一連の研究プロジェクトに従事しており、実用が始められています。
現在開発中のドローン系機材は、6つのローターがついた2つのショットガンを搭載しており、遠隔操作によって建物を襲撃することが期待されています。
ロボットの軍事多用がもたらす懸念とは
このようにロボット兵士をはじめ、最新技術の導入が多くなればなるほど、ロボット戦争ならではの潜在的な危険性が懸念されます。
イギリスの現役将軍は、既存の地域紛争で「激化が誤算につながる」場合、イギリスは将来致命的な戦争に巻き込まれる危険性が残っていると警告し、その会見をこのように締めくくっています。
「歴史は100%繰り返されるとは限らないですが、一定の流れがあることを忘れてはなりません。
20世紀を振り返れば、2つの世界大戦の前に、地域紛争が激化したことで想定外の事態が起き、最終的に大規模な戦争に繋がったことには議論の余地がないのです。
今後も、大きな世界紛争の危険性は十分あり、私たちはその危険性を意識する必要があるでしょう」
ロボットの軍事利用は確実に浸透しつつあり、懸念点や課題は残りつつも活躍している姿を容易に想像できる時代になってきたのではないでしょうか?最新技術が脅威をもたらすのではなく、人間を守る方向で活躍してくれる画期的な未来に期待したいところです。
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