アメリカ航空宇宙局「NASA」はこれまで多くの宇宙探査計画を実行に移してきました。
「アルテミス」と名付けられた有人月面探査計画では、宇宙飛行士は月の周りを回っている有人拠点である「ゲートウェイ」にて、着陸船への“乗り換え”が計画されています。
今回 NASAは、ゲートウェイを構成する宇宙飛行士の利用する空間のひとつ “HALO” を、とあるアメリカの軍需メーカーが担当すること、そして打ち上げが2023年以降に行われる予定であることを発表しました。
それでは、この計画について、詳しく見ていきましょう。
NASA「ゲートウェイ」最初の打ち上げにファルコンヘビーを選定
アメリカ航空宇宙局(NASA)は2021年2月10日、ある発表をしたのをご存知でしょうか?
それは、建設の段取り中である月周回有人拠点「ゲートウェイ」の最初のロケットにアメリカの航空宇宙メーカーである「スペースX」の“ファルコンヘビー”が選定されたという内容でした。
打ち上げは2024年5月以降とされており、これをもってゲートウェイの建設がスタートすることになります。
NASAによればゲートウェイは国際宇宙ステーション(ISS)のおよそ17%ほどの大きさで、アルテミス計画にて中間地点としての役割を果たします。
ゲートウェイが建設されるのは「NRHO」と呼ばれる細長い軌道で、地球からの輸送コストが月の軌道と比べて 70%に抑えられます。
そして、アルテミス計画でも調査予定である 月の南極域をじっくりと観察できることから、月面と地球の通信を取り持つ可能性も期待されています。
今回決まったスペースXのファルコンヘビーによって、2つのモジュールが打ち上げられます。
それは、マクサー・テクノロジーズが製造を担当する “PPE”と、ノースロップ・グラマンが担う“HALO”です。
PPEは、2枚の太陽電池パドルや 電気推進ロケットエンジンを備えており、各モジュールへの電力供給、高速通信、姿勢制御に加えて 軌道変更能力も有します。
もう一つのHALOは、内部の気圧が保たれる 居住用モジュールの一つで、新型宇宙船「オリオン」や 開発中の月着陸船“HLS”、補給船などとの結合が可能となっており、宇宙飛行士の滞在や乗り換え、ゲートウェイの統制を取ったり、調査のサポートなどを担います。
HALOは、宇宙飛行士の滞在や乗り換え、補給船のドッキングなどに用いられる“モジュール”と呼ばれる空間で、国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送に用いられている補給船「シグナス」の与圧貨物モジュールをベースに製造されます。
今回選ばれたスペースX社は、地球からゲートウェイへの補給物資運搬の任務や 月着陸船HLSの開発を担う企業の一つとしても選出されている他、有人宇宙船“クルードラゴン”によるISSへの運用飛行も担っています。
今回の選出によってアメリカの宇宙探査への注目度がより一層高まることでしょう。
ゲートウェイの構造と、打ち上げ方法の変更
宇宙に到着したクルーたちは まず HALO にドッキングし、月面に着陸できる宇宙船に乗り換えてから 月の南極域に降下します。
そして、月面でミッションを終えた後 HALO に戻り、また乗り換えて 無事地球への帰路につくという流れで 任務を果たします。
PPEとHALOとの結合は 月を周回する軌道上で行われる予定でしたが、今回のNASAの発表で「技術的な危険回避」と「費用削減」のために、PPEとHALOを前もって結合した状態で一緒に打ち上げることが判明しました。
スペースXの補給物資運搬ミッション
アルテミス計画では1回の月面探査ミッションにつき1回の補給物資運搬ミッションを実施します。
地球から打ち上げられた補給船は ゲートウェイに到着すると そのまま6ヶ月~1年程度滞在し、地球を出て宇宙に到着したクルーたちが ゲートウェイや月面で滞在するのに欠かせない物品を提供します。
今回、選ばれたスペースXは 2012年から国際宇宙ステーション(ISS)への補給物資運搬ミッションを実施しており、直近では補給船「ドラゴン」の20号機がISSに到着しています。
スペースXは公式Twitterアカウントを持っており、その投稿によれば、ゲートウェイへの補給には数トンもの物資を搭載できる 新しい補給船が用いられることになるようです。
NASAの発表では この補給船を“ドラゴンXL”と公表しています。
なお、NASAではゲートウェイへの補給物資運搬の任務に 複数の企業を選ぶ予定で、選定された企業は 最低でも2回の受注が約束されるのです。
NASAのプロジェクトとあって、その座を巡り 熾烈な国際技術競争があったのかもしれません。
NASAの計画参加へ日本も正式合意
ゲートウェイの開発において、日本政府はNASAと参加することを正式に合意しました。
正式には「民生用月周回有人拠点のための協力に関する 日本国政府と アメリカ合衆国航空宇宙局との間の了解覚書(MOU)」という名称で交わされています。
この覚書は ゲートウェイに関する協力を意味する国際的な約束です。日本は2019年10月、ゲートウェイへの整備を含む アルテミス計画への参画を表明しました。
日本の協力分野は「居住の能力に係る基盤的機能」と「物資補給」とされています。
具体的には、ゲートウェイの心臓部分に当たる 国際居住モジュール「I-Hab」において、環境制御や生命維持、バッテリー、熱制御などの提供のほか、HALOのバッテリーの製造や物資補給として、現在 日本が開発中の新型補給船「HTV-X」の提供が予定されています。
NASAが2024年までに計画している複数の「アルテミス計画」にとって、「ゲートウェイ」は、月周回上で行う 研究や技術開発の拠点、月面探査のプラットフォーム、月面有人ミッションのための司令塔など 重要な役割を果たします。
さらに、火星有人ミッションのための 中継基地として使用される構想もあるのです。
トランプ前大統領がNASAの計画を前倒し?
NASAによる有人月面探査再開は もともと2028年が予定されていましたが、実はトランプ政権のもとで 4年前倒しされたことが明らかになっています。
この計画の肝となる 新型ロケットの“SLS“や 宇宙船オリオンの開発は、新型コロナウイルスの パンデミックの影響を受けて 遅延が発生していました。
それにより、宇宙船オリオンの無人テストミッション「アルテミス1」は今年2021年11月に先送りされています。
過去の段取りでは、2021年のアルテミス1に続いて翌年に「アルテミス2」を実施、2023年にゲートウェイの打ち上げに至り、2024年に有人月面探査ミッション「アルテミス3」の順で計画されており、時期の調整はあるにせよ、来年以降は 注目すべきイベントが目白押しとなっていることがわかります。
NASA主導の壮大な宇宙計画に、日本の技術も参画していることを誇らしく思う方も多いのではないでしょうか?各ミッションが計画通り遂行され、人類の宇宙計画が1歩1歩着実に進んでいくことを楽しみに見守っていきましょう。
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