ブラックホールは、1783年にジョン=ミッチェルによって初めて提唱されました。
現代の物理学におけるブラックホールの理論は、シュワルツシルトが一般相対性理論の厳密解を発見したことから始まっています。
その存在が1971年に初めて認められて以来、多くの研究者たちがブラックホールという魅力的な研究領域に情熱を注いできました。
近年の研究で重力波の観測されたことによって、ブラックホールの存在は確実なものとなりました。まさに大革命といえるような研究成果が上がっています。
2020年のノーベル賞では、3名の研究者がブラックホールに関する研究で物理学賞を受賞し、今後ますます研究が盛り上がっていくことが期待されています。
今回は、これまでの研究で判明している、ブラックホールに関する意外な事実の数々をご紹介します。
ブラックホールは1種類だけじゃない?
実はブラックホールには3つの種類があります。1つ目の種類は「恒星ブラックホール」と呼ばれ、3つの中では体積が最小のものです。
この種類のブラックホールは、太陽を超える規模の恒星が崩壊し続けたときに生み出されます。
太陽の数倍の質量が、地球上のひとつの都市くらいの大きさにまとまるので、圧倒的に高密度なブラックホールが誕生するのです。
2つ目の種類は、太陽と同程度の大きさであるにも関わらず、太陽の数十億倍の質量があるものです。
この種類のブラックホールは、天の川の中央などにあるそうです。
誕生する仕組みはまだ解明されていません。
最後は中型のブラックホールで、先に紹介した2つのブラックホールの中間の規模のものです。
連鎖的に恒星の崩壊が発生したときに誕生するブラックホールで、実際に存在が確かめられたのは、2014年のことでした。
ブラックホールはどんな見た目?
ブラックホールを、通常の星のように天体望遠鏡で観察することができないのは、ブラックホールが光さえも吸収してしまうほどの重力を持っているからです。
ブラックホールそのものを観察することはできませんが、ガスが炎を放ちながらその深淵に沈んでゆく姿を観察することは可能です。
高性能な望遠鏡をもってすれば、ガスが集まる中央部分は、真っ黒な穴が回転しているように見えることでしょう。
ブラックホールが衝突した
2015年、LIGO(ライゴ)が宇宙からの微かな信号を検知しました。
その信号の正体は、なんと13億年も前に衝突を起こした、2つのブラックホールのエネルギーだったのです。
2つのブラックホールは、どちらも太陽の30億倍程度の質量を持っていました。
この2つが旋回し合った後に衝突を起こし、わずか0.2秒のうちに合体して、1つのブラックホールになったといいます。
新たに誕生したそのブラックホールは、質量にして太陽の62倍という大規模なものでした。
2つが合体するとき、そのエネルギーの一部は、重力波という形で外界に放出されました。
それがLIGOの検知した重力波の正体だったそうです。
重力波とは、アインシュタインの理論によると、時空に歪みを生じさせるさざ波のことです。
実際に検知する手段が存在しないとされていたため、いままで重力波の存在が確かめられることはありませんでした。
このような背景があったことから、重力波の検知に成功したLIGOは世界的に称賛を集め、ホーキング博士からも「科学における重要な瞬間」と評価されています。
時間の流れる速さが変わる?
ブラックホールの周囲に近づくにつれて、時間の流れ方はどのように変化するでしょうか?
映画などでブラックホールを目にしたことがある人ならば、ご存じかもしれませんが、多くの人が予想する通り、ブラックホールの近くでは時間がゆっくりと流れています。
この変化は、ブラックホールの巨大な重力によって発生するものです。
大きい重力のもとでは、一般的に時間の流れは遅くなるといわれています。
ブラックホールの中心との距離が、シュワルツシルト半径と呼ばれる基準に達すると、「遅い」を通り越して、時の流れが停止してしまうこともあるそうです。
ど真ん中には何がある?
先程、ブラックホールに近づくと時間の時間の流れが遅くなっていき、やがて時間が停止してしまうということをご紹介しました。
では、時間が完全に停止してしまう基準であるシュワルツシルト半径に達してから、さらにブラックホールの中心部分に向かって進んでいくとどうなるのでしょうか?
答えは「時間が消滅する」です。
シュワルツシルト半径を超えてからも進み続けると、いずれはブラックホールの中心点に到達します。
この中心点は特異点と呼ばれ、あらゆる物理法則が例外的に破綻してしまう場所だと考えられています。
特異点では圧力や密度が無限大になるため、ほとんどの物質は潰されて点になってしまいます。
また、こうした物質を吸収することで、特異点は無限に成長していきます。
しかし、ブラックホールの内部を観察することはできないため、特異点はあくまで、仮定のもとでしか成り立たない、単なる理論上の存在だと考える研究者も多くいます。
地球の最寄りブラックホールは?
ブラックホールは観察が難しいため、距離を正確に測定することはできません。
しかし、地球から最も近いといわれているブラックホールがいくつかあります。
ブラックホール研究の初期の頃は、天の川銀河の中央にあるブラックホールが最寄りであると考えられていました。
その後、地球から約3000光年の距離にある、一角獣座X-1という連星に含まれるブラックホールが、天の川銀河よりも近いことがわかりました。
2020年には、それよりも近いブラックホールが、地球から約1000光年のHD167128という星系で発見され、現在ではこれが地球からの最寄りブラックホールであると考えられています。
エネルギーは吸収するだけじゃない
どのような物質であれ、ブラックホールの中に入ってしまうと、吸い込まれてそこから脱出することは不可能になります。
そのため、研究が始まったばかりのころは、ブラックホールはエネルギーを「吸収する働き」しか持っていないと考えられていました。
しかし、1970年代にホーキング博士が、ブラックホールはエネルギーを周囲に「放出する」ということを証明しました。このエネルギー放出は彼の名を取って、ホーキング放射と呼ばれています。
ブラックホールの持つ膨大なエネルギーが放出されているのであれば、それを利用しない手はありません。
1980年代に、物理学のとある研究チームは、ブラックホール内部にエネルギーの「収集装置」なるものを投げ入れるという構想を提唱しました。
まるで、井戸にバケツを投げ入れて水を汲み取るようなものです。
これを実現するためには、ブラックホールの重力に負けずに、それを引っ張り上げられるだけの強靭なロープが必要です。
ブラックホールを作ることはできる?
人工的にブラックホールを作ることは理論的に可能ですが、普通は地球に大惨事をもたらすリスクを取ってまで、わざわざブラックホールを作ろうとは思わないでしょう。
しかし、ホーキング放射を利用して、安全に留意しながら人工ブラックホールを生み出そうとしている科学者たちもいます。
現在はまだ、ブラックホールの再現に成功した例はありませんが、いずれ人工ブラックホールが完成するかもしれません。
ブラックホールは宇宙の神秘の中でも最たるものであり、恐ろしいイメージを持っている人も多い天体です。ブラックホールのエネルギーは、物理法則を破綻させるほど強力です。人工的なブラックホールの生成や、ブラックホールのエネルギーの抽出などの研究が行われていますが、これらの成果が悪用されると大変危険だと思います。今年はブラックホールの研究で、3人の学者がノーベル物理学賞を受賞したこともあり、ブラックホールは、物理学界で最もホットな研究領域になっています。その成果が、学問の発展や、地球の繁栄のために活かされることを願っています。
コメント