科学技術が発展し、人間の能力を超越したAI、いわゆる人工知能が登場すると、技術的特異点が起こる言われています。
この技術的特異点という言葉は、米国の数学者ヴァーナー・ヴィンジ氏が1993年に自身の著作で「30年以内に技術的に人間を超える知能がつくられる」と表現し、人工知能研究の権威であるレイ・カーツワイル博士が「2029年に人工知能が人間並みの知能を備え、2045年に技術的特異点が来る」と提唱する概念で、これが「2045年問題」と呼ばれています。
今回は、レイ・カーツワイル博士が、アメリカ・テキサス州オースティンで開催されたSXSW (サウスバイサウスウェスト)カンファレンスで発言した内容や技術的特異点について紹介します。
レイ・カーツワイル博士の発言
レイ・カーツワイル博士は、人工知能が「機械が人に近い振る舞いができるかどうかを判別すること」を目的とした「チューリングテスト」をクリアし、人工知能が人間の知能に到達するのが2029年であると予言しました。
そして、人工知能が人間の知能を超越する「技術的特異点」を2045年と予言したのです。「技術的特異点」を迎えた時、人工知能が融合することで、私たち人間の知能は10億倍になるそうです。
ちなみに、ここで言う「技術的特異点」とは、科学技術の進歩によって人間の知能を超える知能を搭載したマシンが登場することで、ソフトバンクの孫正義氏などが超知能マシンの登場を予測した2047年という時期とほぼ一致しています。
そして、レイ・カーツワイル博士は、人間の知能と人工知能の融合はすでに始まっていると述べています。
それは、人工知能を搭載したコンピューターを脳に装着し、クラウドに繋がることで、意識の拡大を可能とする、いわゆる脳の拡張装置として活用する方法です。
それは単なる未来の予測ではなく、部分的には既に実現していて、今後はさらに加速することは間違いありません。
技術的特異点に対する心構え
人工知能が人間の知能を超える時は、そう遠くない未来に必ずやってきます。そして私たちは誰もが「技術的特異点を迎えた時、人間は人工知能に支配される危険性は無いのか」と考えるでしょう。
スティーブン・ホーキング博士、イーロン・マスク氏、ビル・ゲイツ氏など、各業界を代表する人物が、人間の知能を超えた機械によって世界が支配されてしまうという未来について警告してきました。
しかし、レイ・カーツワイル博士は、人工知能の進化などの科学技術に関しては楽観的であるべきだと考えています。
SFの世界で描かれている、技術的特異点を迎えた後、単一の人工知能が人類を支配するという考え方は非現実的だと言うのです。
実際、世界に存在する人工知能は一つだけということはなく、ポケットのなかのスマートフォンにも人工知能は搭載されているので、人工知能は無数に分散化されている状態と言えるのです。
技術的特異点によって人類は進歩する
レイ・カーツワイル博士は、人工知能が向上する技術的特異点は人類が大きく進歩、向上するチャンスだと考えています。
そして、2030年代には人工知能を搭載したデバイスを人間の思考を司る大脳新皮質に接続し、さらにクラウド上に「合成新皮質」と言えるようなものを作り出し、アクセスすることで、私たち人間は本来の知性と人工的な知性のハイブリッドな存在になっていくというのです。
これによって、今まで以上に大脳新皮質の活用が可能になり、言語や音楽、アートのセンスが向上し、より良く、スマートになるそうです。
技術的特異点は世界が機械に支配される日なのか
レイ・カーツワイル博士は、技術的特異点は世界が機械に支配される日ではなく、人間と機械が融合する日であると言います。
実際、パーキンソン病の患者の中には脳にコンピューターを接続している人がいること挙げ、2030年代中には記憶を補助するために脳にコンピューターを埋め込むようになるだろうと予測しています。
2029年までに「超人」が登場
人間の脳は100兆個の極端に遅いシナプスしかなく、2029年には、すでに人工知能の思考能力が人間の脳の演算能力をはるかに超えるだろうと予測しています。
これによって、2029年には人間の脳が人工知能と融合し、これまでの人間を超える魅力・知性・強さを備えた「超人」が登場すると考えられています。
脳にコンピューターを内蔵
まるでSF映画のような話ではありますが、現代のサイバネティック社会で暮らす人間は、自分の脳の中に人間の知能を上回るコンピューターを内蔵するようになるそうです。すでにスマートフォン依存症の人々は、こうした状況に近いものがありますが、次のステップとしてそうした技術と脳との接続が考えられるのだそうです。
人間の知能を上回るコンピューター
繰り返しになりますが、人間の知能を上回るコンピューターを自分の脳に内蔵するようになると、次にそのコンピューターがクラウドに接続することで自己の拡大が可能となります。
それは単純な未来予想図というだけでなく、部分的にはすでに実用化されていて、さらには進化、発展しているところもあるそうです。
コンピューターを脳に内蔵することがもたらす人類の進歩
レイ・カーツワイル博士によると、すでに人間は機械によって知能が向上していて、機械を大脳新皮質に接続することで、さらに思考能力が向上する可能性があるそうです。
つまり、コンピューターを脳に内蔵、接続することで、人類がさらに進歩すると信じていると言うのです。
機械が人類を支配、駆逐するという未来像ではなく、人間と機械の協調によって人類がさらに進歩するというのが、レイ・カーツワイル博士が信じる未来像なのです。
10年以上前、アメリカ国立科学財団は「ネットワークを利用したテレパシー」、つまり脳に電極を接続し、人間と機械がインターネットを介して直接思考を送信する技術が2020年代にまでに実用化されると予測しました。
このような技術の進化、実用化は、究極的にはあらゆることに影響すると予測されます。例えば、人工知能によって身体的に拡張され、全人類の身体的な欲求はすべて満たせるようになるかもしれません。
更に、私たちは心の拡張も可能となり、私たちが重んじる芸術的資質も強化されるかもしれないのです。
機械を活用した人類の強化
約100年前、眼鏡やラッパ形補聴器といった単純な機器が誕生し、私たちの生活は劇的に改善されました。
次に、心臓のペースメーカーや人工透析器、人工心肺装置といった高度な医療機器が現れ、2010年代までには、iPS細胞からのヒト臓器創出、遺伝子手術、デザイナーベビーというものまで実現しているのです。
ちなみに「特異点」という用語を最初に用いたのは、数学者ジョン・フォン・ノイマン氏であると言われていますが、彼は1950年代半ばに「常に加速しつづける進歩を見ると、どうも人類の歴史において何か本質的な特異点が近づきつつあり、それを越えた先では我々が知るような人間生活はもはや持続不可能になるのではないか」と述べています。
そして1993年、サンディエゴ州立大学の数学者ヴァーナー・ヴィンジが「技術的シンギュラリティの到来」という論文で「30年以内に我々は、人間を超える知能を生み出す技術的手段を手にするだろう。それからまもなく、人間の時代は終わる」と言っています。
いずれ訪れる「技術的特異点」とされる2029年は、あと数年でやってきます。その時、私たちの脳には本当に人工知能を搭載したチップが埋め込まれているのでしょうか?日常生活が、本当に充実して豊かに送れるのであれば、そうした未来も悪くないのかもしれません。
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