氷の衛星エンケラドゥスは土星の周りを公転している衛星です。
そんなエンケラドゥスですが、実は微生物が過ごすことのできる環境ではないかといわれています。
また、エンケラドゥスは地球外生命の探索候補地にもなっています。
そこで、中央ヨーロッパに位置するオーストリアのウィーン大学の研究者らは、土星の衛星エンケラドゥスと同じような環境をつくり、微生物を培養するテストを実施しました。
その結果、エンケラドゥスに微生物が住んでいるかもしれないということが明らかになりました。
今回は、土星の衛星エンケラドゥスの環境と微生物の研究についてご紹介します。
衛星エンケラドゥスの水と海
土星の衛星エンケラドゥスは、生命が住むことのできる環境であるといわれています。
1つめに、エンケラドゥスには液体の水があることが分かりました。
NASAの土星探査機であるカッシーニで探査を行ったところ、エンケラドゥスの南極から粒子状のプルームとガスが観測されました。
さらに、粒子状のプルームとガスは地殻の下に存在する海からつくりだされていることが判明しました。
海は水深65kmほどで、5kmにもおよぶ分厚い氷の下にあると考えられています。
衛星エンケラドゥスに存在する熱水噴出孔と化合物
2つめに、エンケラドゥスには熱水噴出孔があることが分かりました。
海の底にはひびが入っていて、高温の岩石と非常に冷たい氷が共存しているのではないかといわれています。
それによって、生物のもととなる化合物が生じているかもしれないと考えられています。
エンケラドゥスのプルームには水素、二酸化炭素、メタンが含まれており、それらの化合物は地球上に存在する酸素がない環境でも生命を維持することのできる微生物と関わりがあります。
このような微生物は水素や二酸化炭素を体内に取り込み、メタンを体外に吐き出す特徴があります。
ウィーン大学が行った研究とメタン生成アーキアという微生物
オーストリア・ウィーン大学の研究者らは、エンケラドゥスと同じような環境をつくり、3種類の微生物の様子を観察しました。
その結果、地球の深海に存在する熱水噴出孔にて生存しているメタン生成アーキアという微生物が子孫を増やし、メタンをつくりだしたのです。
このことから、氷の衛星ともいわれているエンケラドゥスのような太陽系の厳しい環境においても、生物が自らの命を維持できることが分かりました。
論文を書いたシモン・リットマン氏は「このような微生物は他の惑星でも生きることができるはずです」とのコメントを残しています。
エンケラドゥスと生物
メタン生成アーキアが生存している地球の熱水噴出孔は、エンケラドゥスとそっくりの環境であるといわれています。
そこで、エンケラドゥスと同じような環境をつくり、生物が生存できるのかどうかを調べました。
その結果「メタノサーモコッカス・オキナウェンシス」という生物がエンケラドゥスでも生存できる可能性があることが判明しました。
この生物は一酸化炭素やアンモニアといった、有害物質が存在する環境下でも子孫を増やしていきました。
今後の研究
土星の衛星エンケラドゥスの海は微生物が住める環境であるというのは、あくまで「かもしれない」という可能性の問題であり、エンケラドゥスは微生物が住める環境であると確定したわけではありません。
もしかしたら、確認できたメタンは別の原因によってつくられたものかもしれません。
カッシーニはエンケラドゥスについて様々な情報を与えてくれたものの、不明な点も多く残されています。
それらの不明な点を明らかにするためには、新たなエンケラドゥスの探査が必要になります。
しかし、NASAはエンケラドゥスの探査よりも、木星の衛星であるエウロパなど別の衛星の探査に力を入れているため、詳細が分かるようになるまでかなりの年月がかかるかもしれません。
土星の衛星エンケラドゥスの環境と微生物の研究についてご紹介しました。土星の衛星に生命が住んでいることが分かれば、それは新たな1歩になることでしょう。現在エンケラドゥスについての研究を行うのは予算の影響で困難になりそうですが、いつか探査が行われることになれば、新たな大発見があるかもしれません。
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