ハイリスクでインパクトの大きい研究開発プロジェクトに資金援助を行うことで有名なDARPA、アメリカ国防総省の国防高等研究事業局は、課題解決型研究開発の手法によって、プロジェクトの目的を必ず達成させると言われています。
今回は、そのDARPAが資金援助する9つの革新的研究開発プロジェクトについて ご紹介します。
多言語同時翻訳機
多様な言語を同時に翻訳し、会話を可能にするというアイデアは様々なバージョンがありましたが、実現には至っていません。
しかし、多様な言語の文法を体系化することを目的とした、DARPAの「ローレライプログラム」の登場で、あらゆる国のユーザーが、その場でそれぞれの言語を使って会話することが可能となりました。
これまでは、信頼できる有能な翻訳者が確保できず、異文化間の相互理解不足を招き、致命的な誤解を生み出す危険性がありました。
特に、アメリカ軍では、駐留地の地域住民との意思疎通が上手くできないことが、大きな課題となっていたのです。
異文化の相互理解や意思疎通ができないことで、地域住民との衝突回避が不可能な状況でしたが、軍の小隊長や兵士たちが多言語同時翻訳機を身に付け、その場で相手と会話することが可能となれば、いさかいの発生を防ぎ、無益な争いを起こさずに済むようになります。
サイバー・チャレンジ
DARPAが災害救助用ロボットの競技大会として企画した「DARPAロボティクスチャレンジ」の中には、ハイレベルなサイバー防衛システム構築を競い合う「DARPAサイバー・グランド・チャレンジ」という競技もあります。
インターネットに接続されているコンピューターは、常にセキュリティの問題にさらされていますが、コンピューターのシステム、ソフトウェアの脆弱性・問題点の発見やその修正、パッチ当てを人間ではなく、コンピューターによる自動化を目指し、その能力を競うというコンテストです。
相当難しいチャレンジであり、セキュリティそのものが多岐にわたるのでセキュリティ技術者が不要となることはありませんが、システムの脆弱性の発見や修正の多くを自動化することで、ハッカーからの攻撃を防ぐことが可能となりITの安全性が大きく増進することは確実です。
非侵襲性医療技術
非侵襲性医療技術とは、生体を傷付けないで医療行為を行う技術の事です。
DARPAは、生体にメスを入れずに広範囲の病気の診断をするためにテラヘルツ技術を使用する機器の開発を進めています。
テラヘルツ波とは、光波と電波の境界領域にあたり、この部分のスペクトル放射は相当量のエネルギーを持つ一方で、人体の周囲や内部で使用しても安全であるという性質があるそうです。
初期の診断機器では、皮下数ミリ程度しか識別することができませんでしたが、現在では高性能の機器が開発されています。
ただ、テラヘルツ波の発生と検出は困難であるため、技術的な面ではまだ大きな問題があると言われています。
電気ショックによる脳の活性化
頭蓋骨の上から極めて微弱な直流電気を流して脳を刺激する「経頭蓋直流刺激(tDCS)」は、脳を活性化させ、そのパフォーマンスを向上させる方法として知られています。
これまでも、軍では狙撃手や無人機操縦士の能力を最大限に引き出し、意識を集中させる目的で使われていました。
しかし、DARPAは更なる脳情報関連技術の開発・向上を目的としてIARPA、情報高等研究開発活動を設立、人間の適応力や問題解決力の強化・拡充を目指すプログラムを策定しました。
詳細な内容は機密事項ですが、このプログラムには心理学や薬学の他に電気認識介入の要素も含まれていて、迅速かつ正確な意志決定能力の向上を目的としているそうです。
飛行機から降下可能なロボット
二足歩行の人型ロボット「アトラス」などのスーパーロボットは、ドアを開けたり、後方宙返りをしたりすることができる高い身体能力を持ったロボットですが、果たして飛行機から降下することは可能なのでしょうか?
この命題に対して、DARPAは「基本的に壊れない」シンプルなデザインのロボットを作りました。
いわゆる「防弾ロボット」ではなく、空中から標的地域を攻撃したり、標的に近づいて付着したりできる小さな虫のようなロボットです。
これら小型ロボットは、小さなカメラやマイク、GPS発信機を搭載する程度しかできず、その動きのメカニズムもかなり原始的な仕組みとなっています。
特に、虫が身をくねらせて移動するぜん動を真似ることで、手足のような部位は不要となり、全体の軽量化が実現できるそうです。
ミサイルを迎撃する高エネルギーレーザー
アメリカ空軍研究所によると、レーザー兵器の実験的システムにおける初期段階のテストとして、空中に発射された複数のミサイルの撃墜に成功したそうです。
この初期試験では、地上の装置からレーザーを発射しましたが、将来的には小型化を進め、F-15戦闘機への搭載が計画されていると言います。
この計画が実現すれば、地対空および空対空ミサイルの脅威から戦闘機を保護することが可能になります。
「死んだ人工衛星」を宇宙で回収・再利用
DARPAは、役目を終えた後も軌道を回っている古い人工衛星を宇宙で回収・再利用する「フェニックス計画」を策定しました。
活動期間を終えてリタイアした人工衛星でも、搭載しているアンテナや太陽電池パネルなどの部品は、まだ正常に稼働していることがあるため、こうした衛星を捕獲し、使える部品を解体・回収するための専用ツールのついた「宇宙ロボット」を開発、利用する予定だそうです。
人工脾臓
軍や兵士が一番恐れていることは、攻撃によって傷を負った時、血液が何らかの病原体に感染して敗血症を引き起こし、死に至ることだと言っても良いでしょう。
これを防いでくれるのが脾臓で、血液を濾過し、病原体を排除することで感染症から体を守る役目を担っています。
DARPAが開発した人工脾臓は、細菌用のフィルターで直接血液を濾過し、病原体を分離することが可能だと言います。
軽量で耐久性にも優れているので、戦場だけでなく人道的危機のときにも活用できると言います。
究極の医師による自律診断
世界の終焉を望むテロリストや敵対国政府が、新種の細菌兵器を開発した場合、こうした突然の脅威、未知の病原菌に感染してから30日以内に毒素による作用や症状を特定できる診断基準を作成することを目的としています。
そのためには、新たな化学兵器や生物兵器を生み出す科学者に対抗できる能力と資質を兼ね備えた究極の医師が必要なのです。
DARPAは、こうした究極の医師を育成・確保することは予防的、防衛的措置と判断し、妥当な予算を割り当てているようです。
実際、治療法が開発されれば、生物兵器を無力化することは可能ですが、ICBMが直撃した場合の治療薬は存在しません。
そのため、従来の単純な弾丸やレーザー、爆発物などの兵器の使用に留まるよう、様々な政策を利用しているのです。
紹介した9つの革新的研究は、SF小説に登場しそうな技術もありますが、DARPAが資金援助している以上、実現の可能性があることを意味しています。すべて軍事目的として開発されているもので、未来の戦争を一変させる可能性もありますが、将来的には軍事用以外にも転用、汎用化され私たちの生活にも役立つ日が来るかもしれません。
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