人間の体は神経と細胞から成る生物学的プロセスの宇宙です。この「人体という宇宙」には、不思議な仕組みが数多く存在しています。
最近の医学界においても、すばらしい発見があり、中には今なお人間が進化していることが確認できる発見もあったそうです。今回は、これら人体の不思議に関する発見についてご紹介します。
立ちくらみの仕組み
人間は、急に起き上がったり椅子から立ち上がったりすると 血圧が急激に低下します。
人によっては低下した血圧が元に戻りにくい場合があり、ふらつきやめまい、失神などを引き起こすものを「立ちくらみ」と呼んでいます。
正常であればこの血圧低下が圧受容器反射として血管収縮を起こし、血圧はすぐに戻るのですが「立ちくらみ」が発生する時の圧受容器の詳細な仕組みはわかっていませんでした。
しかし、2018年に「PIEZ01」と「PIEZ02」というタンパク質が血圧を感知していること、特に「PIEZ02」は血圧に応じた心拍数を制御する働きがあることが判明しました。
人は平均5000人の顔を記憶可能
イギリス・ヨーク大学の研究チームは2つの大学から集めた18歳から61歳の学生25人に対し「個人を明確に識別できる個人的な知人の顔」「直接的には知らないが、世間的に有名な顔」を思い出してもらう実験を行いました。
続いて「公に有名だと思われる3441人の、合計6882枚の顔写真データ」を見せ、どの程度の識別率が得られるかという実験を行いました。
2つの実験結果のデータから、研究チームは「人は平均5000人の顔を認識できる」と論じています。
血の涙
イタリア・ミラノ郊外に住む52歳の男性が、両目から血を流し、救急病院に運び込まれました。男性は、何の痛みも感じず、突然赤い涙が流れ出し、2時間程度止まらなかったそうです。
これは「ヘモラクリア」という症状で、検査の結果、結膜の炎症部分に血液が過剰に流れ込み、両方のまぶたの奥にある鼻涙管という涙の通り道にできた血管腫と涙が混ざり合ったことが原因でした。
男性には目薬が処方され、症状は治まったといいます。
更新世の人類には「奇形」が多かった
2018年、人類学者エリック・トリンカウスは、中東とユーラシアで発掘、収集した更新世の人類の化石66体を調査し、計75点の発達異常を発見しました。
湾曲した手足、歪んだ顎や穴の開いた頭蓋骨など、かなり高い割合で奇形を発見したのですが、一部の原因は血液疾患や水頭症だと推測できた一方、大部分の奇形の原因は分かりませんでした。
また遺伝子異常が原因の奇形もあり、更新世では近親交配が頻繁に行われていたと推測されます。
現代ではこうした奇形の発生は1%未満であるため、更新世の人類には異常なくらい奇形が多かったか、あるいは 奇形の人が別に埋葬されていた可能性も考えられます。
腸は食べ物を食べた場所を憶えている
腸は食べ物の通路であると同時に迷走神経で脳とつながり、迷走神経を介して信号を送ることで満腹感などを制御しています。
さらに2018年のラットを使った実験では、腸が食べ物があった場所を覚えるという脳の記憶形成を補助していることも分かりました。
研究チームによると、ラットの迷走神経を半分に切断したところ、切断前は餌を食べた場所を覚えていたラットでも、実際に食べた場所が分からなくなったそうです。
左脳が右脳の機能をカバーする
てんかんを患い、ひどい発作に悩んでいた少年が7歳の時に右脳の3分の1を切除する手術を受けました。切除した範囲には、視覚野や聴覚野が含まれていたそうです。
11歳になった少年は、てんかんも治り ごく普通に成長し読解力では平均よりも良い成績を取るようになりました。そして、驚くことに彼は両目とも見えているというのです。
通常、右目からの情報は左脳で、左目からの情報は右脳で処理するので、右脳の視覚野を失った少年の左目からの情報を脳が処理するはずがありません。
そこで 少年の脳をMRIでスキャンしたところ、右脳の顔認証機能が左脳の言語野で確認されたのです。このように、脳が本来の機能を損なわずに別の機能を重複することが可能な仕組みについては、今でも解明されていません。
私たちの身体を包む「オーラ」
スピリチュアルなものではなく、真剣に人体の周りを取り巻く「オーラ」を研究するチームがあり、研究では「エクスポソーム」と呼んでいます。
まず、被験者の腕に空気モニタリング機器を取り付けて1週間~2年間、過ごしてもらいます。期間終了後、空気モニタリング機器の中には小さな生物、菌類、化学物質などの微細なものがたくさん見られるのです。
このエクスポソームの構成は人によって異なり、生活する場所や飼っているペット、季節などの周囲の環境の影響を受けることは明らかで、実際に2500もの種が発見されたこともあるそうです。
ただ、困ったことに、病原菌やジエチレン・グリコールのような発ガン性物質が混在することもあります。
独自の新言語「ボイスパーカッション」
「ボイスパーカッション」とは、口と声道を使って打楽器のような音を出す技術の事で、この仕組みを調査、研究した事例があります。
研究では、性別、年齢、スキルなど、さまざまな経歴を持つボイスパーカッショニストを集め、MRIの中で演奏してもらい、その間の口周りの動きを撮影したところ、驚愕の事実が判明したのです。
通常、人が言葉を話す時は口、鼻、喉を使いますが、ボイスパーカッションを演じる時は、まるで独自の音をちりばめた新しい言語を話すように、それらを全く異なった使い方をしていたのです。
進化した脾臓を持つ部族
東南アジアの少数民族バジャウ族は、1000年以上にわたり船とともに暮らしてきた漂海民族です。
食べ物やサンゴを求めて深度70メートル以上の海中まで数分間にわたり無呼吸で潜水するという驚異的な能力を持つ彼らを見て、チベットや南アメリカなどの高所で暮らす人々が低酸素環境に遺伝的に順応しているように、バジャウ族の遺伝子にも変化が起きているのではないかと考えた研究者がいました。
そこで、バジャウ族で59人、バジャウ族と遺伝的に近いサルアン族で34人の脾臓を測定した結果、バジャウ族の脾臓が50パーセント大きいことが判明したのです。
人が水に潜ると脾臓は収縮し、酸素を豊富に含む赤血球が血流中に放出されることによって血中の酸素濃度が増加するため、バジャウ族の大きな脾臓はより有利になっていると言えます。
更に、DNA検査によってバジャウ族では甲状腺ホルモンの制御にかかわる「PDE10A」という遺伝子に突然変異があることが判明し、この遺伝子は、マウスでは脾臓の大きさに関係することも分かっています。
ガン細胞を死滅させる「キルコード」の発見
2017年に特定のRNA分子が、ガン細胞を死滅させることが判明し、しかもガン細胞はRNAに抵抗できないことがわかっていました。
しかし、RNA分子がガン細胞を死滅させるメカニズムが分かりませんでした。そして2018年、遂にガン細胞に対して最も毒性の強い「キルコード」の解読に成功したのです。
すべての細胞には突然変異によってガン細胞になった際に自滅できるように「キルコード」が仕組まれているのですが、このメカニズムは偶発的なものではなく、8億年前に疾病から身を守るために進化した仕組みのようです。
現在、ガン細胞を死滅させる強力なコードの開発を進めています。
私たち人間の身体には、まだ解明されていない不思議なことがたくさんあります。骨格や筋肉、臓器の生化学的な働きは絶妙なバランスでコントロールされています。脳に至っては解明されていないことばかりで、小宇宙とも言われるほどです。果たして今後、どのような分野で、どのような謎が解明されるのか、とても楽しみです。
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