NASAの進めている火星探査ミッションが、大詰めを迎えようとしています。2020年夏に打ち上げられる探査機「マーズ2020」は、火星へ向けて8ヶ月の旅をします。
そして、かつて湖だった場所に着陸し、生命体の痕跡を探すのです。果たして火星に、地球外生命体はいたのでしょうか?今回は、生命の痕跡を探るミッションに迫っていきます。
火星の古代湖跡の探査
マーズ2020の目的地は、幅48km、深さ500mのクレーター「ジェゼロ」です。そこは約35億年前、水深240mの湖だったと考えられています。
ミッションの主な目標は「火星に生命が誕生したのかどうかを判定する」事です。無論、現在の火星は強力な放射線にさらされており、砂漠の広がる乾燥地帯であるため、生命は地表には存在しないかもしれません。
しかしマーズ2020の計画に携わるケン・ファーレイ氏は「昔からそうだったのではない」と述べます。科学者らは、かつて火星にも地球にあるような海があったと考えます。
そして、そこには生命体が多く存在したかもしれません。今回NASAが目指すのは、ジェゼロの底で、かつてそこに生息していたであろう微生物の痕跡を探し出す事です。
マーズ2020の降り立つジェゼロには、昔は湖からの水流があり、のちに干上がったとみられる三角州もあります。
こうした環境には、栄養の詰まった粘土鉱物がある可能性が高く、微生物の繁殖に好ましい条件が整っていたでしょう。
機能満載の火星探査ミッション
マーズ2020には、地中探知レーダーのほか、火星の土や石のサンプルを持ち帰るためのツールなど、多くの機器が搭載されています。
湖の三角州から持ち帰ったサンプルは、火星そのものや、そこでの生命体存在の可能性への理解に革新を起こすと期待されています。
そして、かつて火星に生命が存在した証拠を探すために最も重要なツールの1つが、マーズ2020最上部に取り付けられる高機能付きカメラ「スーパーカム」です。
スーパーカムはレーザーを照射し、7.6m先の石や化学物質の構成を調べる事ができます。この機能により有望な場所が見つかったら、そこまで実際に探査機が移動し確かめます。
火星有人飛行に必要なデータも集まる
マーズ2020の役割は、火星の生命の痕跡を発見する事だけではありません。2030年代に予定されている、火星有人飛行に必要なデータの収集も期待されているのです。
マーズ2020がきっと、火星への有人飛行までの道を切り開いてくれるでしょう。
初めて火星の空を飛ぶヘリコプター「インジェニュイティ」
2020年の夏、NASAはマーズ2020ミッションにおける新しい探査車、「パーセベランス」を火星に向けて打ち上げます。
パーセベランスには、なんと人類史上初めて火星の空を飛ぶ「マーズ・ヘリコプター」が搭載されており、その名は「インジェニュイティ」といいます。
創意工夫、巧妙さといった意味を持つこの名前は、アラバマ州の高校生が提案しました。
火星の地下に生命体が沢山いる?
これまで火星の地上で生命体は発見されていませんが、アメリカ地球物理学連合という学会の発表によると、地下であれば微生物が大量に存在する可能性があるとの事です。
NASAは、火星の生命体の存在について様々な調査を行っていますが、科学者らは、もし火星の生命を探すなら、地表を諦め地中を深い部分まで掘り進んだ方が良いと提案しています。
地球の地下生物圏と似た環境が火星にある?
この数十年の間に地球では、微生物が大量に生息する地下環境「地下生物圏」の調査が進められてきました。これを受け、火星の地下にも同じような環境があるのではないかと考える学者がいます。
香港大学の教授、ジョセフ・ミカルスキー氏は、「火星の地表で生命が進化した」と推測されている事に疑問を呈しました。
そして、こうした推測には、地球上の生命にまつわる常識のせいでできた偏見が反映されているといいます。
火星と地球は似ていた?
数十億年前、火星表面の環境は地球と類似していた可能性が高いとされています。
しかし火星から磁場が失われた時、放射線が大量に降り注ぐようになり、それまで地表に生物がいたとしても、それらの生存は困難になりました。
一方で火星の生命は、地上の環境が変わる前に、地下で生活する準備を既に進めていたかもしれません。地球上の最初の生命が誕生したのは、約38億年から39億年前と考えられています。
当時、地球には今の熱水環境に近いスポットが出現していたのですが、この頃火星でも同じようなスポットがありました。恐らく、同時期に火星に誕生した生命は、地球上のものと同じような姿をしていたでしょう。
そしてミカルスキー氏は、そうした生命の中に、地下で生きられるよう適応した生物がいただろうと考えます。
火星の地下は案外住みやすいかもしれない
火星の地下は、地球の地下よりも微生物が棲みやすい環境だとされています。これは火星の岩石に小さな穴が沢山あり、栄養が入るため、またガス交換のための隙間となるからです。
そして火星が地球より温度が低い点も、地下の微生物が生きるのに良い条件といえます。
ミカルスキー氏によると、火星の地下にいるのは長い間冬眠状態でいられる単細胞生物かもしれないし、メタンや硫黄などを代謝する生物かもしれないとの事です。
火星の生物の調査には、地球での常識に縛られず多様な可能性を考える事が大切なようです。そんな中、火星のクレーターに雪が積もった様子が撮影され、その写真が公開されました。
この写真は欧州宇宙機関(ESA)の探査機「マーズ・エクスプレス」が撮影したものです。このクレーターは火星の北極付近にあり「コロリョフ」と呼ばれています。
直径は約80km、深さは約1.9kmに及びます。そしてこのクレーターには、内部を埋め尽くす程の氷が溶ける事なく堆積しています。
生命の半分が地下に存在する地球
地球の地下生物圏が発見されたのは、わずか30年程前の事です。そこに潜む微生物は、地球上に存在する全生命の半数を占めると推測されています。
地球の地下生物圏と同じく、火星の地下も、微生物が驚く程豊富で多様なのではないでしょうか?
地球の地下に棲む微生物は、炭素を地中に取り込み、温室効果ガスとして大気中に放出される事を防ぐという重要な役割を果たしています。
これは地下のエネルギー源とも関係する話で、生命の起源と進化を理解するには重要な事です。地下生物圏が地球にとってどのような意味を持つのでしょう?
また、それが太陽系の他の惑星とどのように関係しているのでしょうか?ミカルスキー氏は「我々は今まさに、こうした疑問の解明へ向けた、最前線に立っています」と述べました。
高度なテクノロジーを駆使した大がかりな火星探査ミッションですが、そういった任務ですら、新型コロナウイルスによる制約を受けています。例えばジェット推進研究所の職員は、火星探査機「キュリオシティ」の操作を、やむを得ずリモートで行っています。しかし、NASAは最先端技術の集まっている環境ですから、そうしたリモート操作やテレビ会議を使いながらも、任務を果たしてくれる事でしょう。
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