現在私たち人類が直面している新型のコロナウイルスの大流行は、後世から見ても世界を大きく変えた事件として語り継がれていくでしょう。
かつてあった冷戦や大恐慌のように、この出来事の前後で世界全体の社会や経済が全くの別物になることは間違いありません。
このパンデミックもすぐには収束しないでしょうが、人類が築き上げてきた叡智をもって立ち向かえば、いつかきっと克服できるはずです。問題なのは、ウイルスを克服した後にやってくる世界の変化です。
ポストコロナやアフターコロナなどと呼ばれるコロナ後の世界情勢について、研究者たちは多様な予測を発表しています。
今回は、さまざまな学問分野で修士号を持ちMBLA(マギル ビジネス法律協会)の会長を務めるエマ=ローズ氏の予測をご紹介します。
消費行動が変わる
家から出ないことが推奨され、他人と会う機会が減った社会では 人と人が直接会ってやりとりすることなくサービスや物を提供するような事業が大成長します。
たとえばAmazonの運営するAWSのようなクラウドサービスや、テレワークに必要なツールを提供するZoomやSlack、家で楽しめるコンテンツを配信するNetflixやVR機器のOculusシリーズなどが挙げられます。
自宅にいる時間が長くなることでインターネットの利用は増えますが、経済そのものは停滞しがちになるので、広告に依存するビジネスモデルであるSNSの収益は落ち込むでしょう。
実際に、コカコーラ社はSNSへの広告掲載を一時停止しました。
市場を先導する力を持つコカコーラのような大企業がこのような動きを見せれば、他の企業も追従して広告業界は大打撃を受けます。
テレビやラジオ業界も落ち込むことになりそうです。ECサイトや配達サービス、物流システムなども外出自粛期間は潤うでしょう。仮にコロナから社会が回復したとしても、これらの勢いはしばらく続くと考えられます。
一度外出自粛に適応した消費者の行動習慣はすぐには元に戻らないため、これらのサービスを利用する人は外出自粛が終了しても減らないからです。
働き方が変わる
企業は急ピッチで在宅勤務への対応を進めなければならなくなり、日本国内では混乱も見られますが、このおかげでわざわざフォーマルウェアに身を包んで出勤する必要はなくなりました。
企業の枠を越えたプロジェクトや、場所に縛られない柔軟なスケジュールも組めるようになりました。
多くの人が在宅勤務を歓迎していて、コロナが収束してからも継続したいと考えているようです。
また、企業経営の立場から見ても、コストなどの現実的な理由から元のようなオフィス勤務に戻るのは難しいでしょう。
在宅勤務が一般的なものになれば、それに伴ってテレワーク技術も発達していきテレワークに移行できる業務の幅も広がっていきます。
そしてオフィスの必要性はほとんど無くなり、最終的に追い詰められるのは不動産業界です。
また、世界各国が外国人の移動を制限したり、厳しい検疫を課したりすることで出張ありきで成立してきた業界も大きな打撃を受けることになります。
さらに在宅勤務が2年、3年と長く続けば、かつてのオフィスワーカーたちは大都市圏から流出していくでしょう。
出勤しなくても仕事ができるようになった彼らは、わざわざオフィスのある大都市圏に住む必要がなくなるので、そのうち家賃が安く、人混みの少ない地方への移住を検討し始めるはずです。
雇用が変わる
大規模なパンデミックの中、企業は仕事のリモート化や自動化を推進しなければ生き残ることができなくなりました。
そうなると、日本企業ではあまり実施されていなかった「仕事のできない社員のリストラ」ということも受け入れざるを得ません。
こういった状況に対応できる人材はますます市場価値が高まるでしょうが、それができない人材はAIや外国人に職を奪われることになります。
本来ならAIによって自動化できる業務を自らの手で行っていた人たちは、自動化が徹底されたアフターコロナの社会では必要のない人材ということになります。
このことによって失業率は大幅に上昇するでしょう。また、テレワークでどこでも仕事ができるということになれば、もはや働く人の国境も関係なくなります。
すると、AIに仕事を奪われなかった人たちも、いずれ優秀で人件費の低い外国人に仕事を奪われてしまうかもしれません。
つまり、自動化できる業務を担当していた人が職を失った後、テレワーク労働者の中で国内人材から国外人材へと仕事が流れていくのです。
医療体制が変わる
アメリカは、遠隔医療の規制緩和に向けて既に動き出しています。医者はチャットなどを利用した遠隔での診察を行うようになり、遠隔での診察も保険適応対象となります。
今のところは臨時的な措置として検討されていますが、手軽で低コストな遠隔医療が一度実現してしまえば、わざわざ元のような医療体制に戻ろうとは思わないでしょう。
遠隔医療が一般的なものになれば、医療も国境を越えるようになり、一流の医師が世界各地の患者を治療するようになります。
また、コロナ危機のおかげで遠隔医療業界には大量の公的資金が投じられるようになるので、遠隔医療の普及は劇的に加速していくことが予測できます。
遠隔医療の普及を期待する投資家も多く、既にテラドックなどの遠隔医療関連企業の株価が高騰しています。
大学が変わる
世界中の大学で授業のオンライン化が進められているなか、一部の学生たちは学費の返金を求めています。
今は声を上げていない学生たちも、オンラインの授業しか実施されない状況がずっと続いたら、通常通りの学費を支払うことに同意するでしょうか?
しかし、オンライン授業というのは悪いことだけではありません。
社会実験的な観点から考えると、この状況は従来のごく一部の人件費だけで高等教育が成立するということを証明しているといえます。
一部の一流大学を除く一般的な大学はいずれ、オンライン授業を取り入れた低コストな教育カリキュラムを組むようになり、多くの大学で学費の低下が見られることになるでしょう。
こうした流れは世界中の学生がオンラインで一流の授業を受けることを可能にし、コスト面だけでなく、教育品質の上昇や教育の平等化にもよい影響を与えることになります。
国際的な往来が減る
現在、世界中の国々は国外から感染者を入れないように、国境を閉ざす方向で動いています。
国際的な物の往来は減少し、貿易は停滞することになるでしょう。
コロナ危機以前から、一度海外進出した企業が生産や研究の拠点を国内に戻そうとする動きが見られていましたが、今回のコロナ危機はそうした動きを大幅に加速させることになるでしょう。
また、ウイルスの持ち込みを恐れる政府が国境警備や検疫、海外からの渡航制限を厳重なものにすることで、国際的な人の往来が滞り、結果として観光業界や航空業界はしばらくの間不況風に吹かれることになりそうです。
新型コロナウイルスという危機に直面した社会は、良くも悪くも猛スピードで変化することを強いられていることがわかりました。何十年間も変化しなかったような業界にも変革が起こり、今までとは全く違うアフターコロナの世界がやってきます。ウイルスのような社会の混乱が起こると、時代の流れが一気に加速してしまうので、時代に合った行動をしていかないと、突然置いていかれてしまいますね。しかし、アフターコロナの世界を考える以前に、私たちはこの危機を一刻も早く収束させなければなりません。ひとりひとりの協力で感染拡大を防いでいきましょう。
コメント