NASAは、有人火星飛行の計画実行を2030年代初めと定めています。
しかし、それまでに科学技術を十分に進歩させておかなくてはなりません。
海外サイトでは、火星移住にあたり必要な先端技術について取り上げられています。
今回はそれら10種類の技術についてご紹介いたします。
火星の環境に適したスーツ
火星には危険なレベルの放射線が降り注いでおり、それを防ぐスーツが欠かせません。
十分な保護性能を備えつつ、軽量化されているスーツが必要です。
それを実現する素材の1つとして、窒化ホウ素ナノチューブという素材が挙げられます。
これは宇宙船の保護材に使われている素材ですが、糸にすることに成功しているため、そこからスーツの布を作れる見込みがあります。
もう1つの問題は、地球の重力に近い圧力がないと身体が衰えやすい点です。
運動である程度衰弱は防げますが、長期的な任務では、地球の重力のように軽く人体を締め付けるスキンスーツを宇宙服の下に着ることになります。
このスーツはまた、動きやすいように設計されているので、運動にも適しているでしょう。
宇宙船
火星への有人飛行のためにNASAが開発するのは、オリオンという宇宙船と、そのオリオンを打ち上げるためのロケットです。
オリオンは宇宙飛行士4名を、6ヶ月から9ヶ月で火星に送れるよう設計されています。
2014年12月、オリオンの無人での飛行実験が行われました。
これは放射線の影響に関するデータを集めることも目的でした。
宇宙空間にある高エネルギーの放射線「宇宙線」があるせいで、人間が 地球 低軌道外にいられるのはせいぜい5ヶ月です。
それより遥かに期間の長い火星ミッションの成功の鍵は、オリオンの宇宙線対策にあります。
宇宙船を着陸させる方法
火星の大気が薄いことから、軽量の無人探査機を着陸させることすら簡単ではありません。
この問題を解決するためにNASAは、パラシュートとエアブレーキの併用を考えています。
一方、火星に人類の永住地を作ろうとしているオランダの団体、マーズワンは、ロケットだけで宇宙船の降下速度を抑えるという異例のアイデアを出しています。
地球に帰還する手段
NASAは、火星の軌道に地球帰還船を置き、地球に帰還する時が来たらこれを使用するという流れを計画しています。
また、予め火星に送り込んでおいた火星上昇船を使い、待機する帰還船にたどり着くという手段も、NASAは提案しています。
火星に着陸した上昇船は、大気中の二酸化炭素を燃料に転換するのです。
燃料がフルになるには2年程かかりますが、フルになったことが確認できるまで宇宙飛行士が火星に向かうことはないので、帰還時はすぐに上昇船を使えます。
軽量化された燃料
複数名の宇宙飛行士が快適に過ごせる程の大きな宇宙船を動かすには、大量の燃料が欠かせません。
しかし大量に燃料を積むと、その重量で火星への飛行が困難になります。
そこでNASAでは、より効率的な燃料を開発しています。
現在のほとんどの宇宙船では化学的推進システムというものが採用されていますが、NASAは太陽のエネルギーを利用する「太陽電気推進システム」を開発中です。
このシステムだと、従来のシステムより遥かに軽い燃料を作れる見込みがあります。
一方現在の太陽パネルでは、従来型に匹敵する推進力が得られず、火星への到達時間が大幅に遅くなってしまうという短所があります。
そこで、太陽電気推進システムを使用し前もって必要な物資を火星に運んでおき、その後従来の化学的推進システムで、宇宙飛行士を素早く火星に運ぶという手段が提案されています。
水を抽出する技術
最近火星で液体の水が発見されましたが、火星で過ごすなら、土壌に存在する氷に頼らなくてはなりません。
水を得るのは飲むためだけではなく、例えば、水を水素と酸素に分離し酸素を得るという利用法もあります。
酸素については、火星の二酸化炭素から酸素を得るという手段も存在しますが、その過程でも水を利用することになるのです。
農業
映画「オデッセイ」で、植物学者マーク・ワトニーが、火星でジャガイモを育てていました。
現実では、ブルース・バグビー氏という宇宙農業研究者が、国際宇宙ステーションでレタスを栽培しました。
彼は映画のコンセプトを肯定しつつも、火星での農業の難易度は映画を上回るといいます。
まず、火星の日照量は地球の6割程度であり、またワトニーのいた居住区は、更に光が少ないのです。
そのため火星での農業には、人工的な光や、太陽光を集める装置が必要だとバグビー氏は述べます。
また、火星の土には大量の酸化鉄が含まれているため、植物が育ちにくいのです。
そのため、移住者は水栽培に頼るか、土の中の酸化鉄を除去しなくてはなりません。
しかし、宇宙での美味しいレタスの栽培に成功したバグビー氏の努力は、きっと実を結ぶでしょう。
居住エリアの開発
火星の居住エリアには、地球に近い圧力が必要です。また放射線など人体に有害なものを避け、更に快適である必要もあります。そして火星では、予想外の問題も発生します。
例えば、移住者が室内で植物を育てる際、植物が酸素を出すことが問題となるのです。
完全に閉ざされた空間では、酸素がやがて人体に有害なレベルにまで充満し、火事などを引き起こす恐れがあります。
しかし換気をすれば、大気に欠かせない窒素が逃げてしまいます。
そのため、宇宙での農業を行うには、酸素だけを処理するシステムが必要です。
インフラ開発ロボット
何もない火星に人間を送り込み、生活環境を整備させることは無謀です。
人間を火星に行かせる前に無人機で必要な資材を火星に送り、ロボットの力で居住区などのインフラをある程度整えておくことが現実的です。
しかし現在の技術では、ロボットは限定的な作業しかできません。
そんな中 NASAは、人型ロボットを開発しています。このロボットの開発や、火星でインフラ開発を始めることについては意見が分かれています。
「火星で1からインフラ開発をするのでなく、例えば先に膨脹式のシェルターを作り、それを火星に持ち込むなど、可能な限り地球上で作業を進めるべき」という意見もあります。
産婦人科
火星で暮らすのであれば、そこで子どもを産むこともあり得ますが、長期間重力の少ない環境にいると、男女共に生殖能力が低下する恐れがあります。
そんな中で万が一無事出産に至った場合、母子の健康をめぐり大きな問題となるのが放射線です。
そこで、火星の衛星の1つ、フォボスに居住エリアを設けようという声があります。
フォボスの一部のクレーターが、9割の宇宙線を防いでくれるためです。
また、子どもの発育にも問題が生じるでしょう。
母親が無重力の環境にいると、地球に戻って出産しても、生まれた子どもの上下感覚が適切に発達しない可能性があります。
しかし、数日 地球上で過ごせば上下感覚は正常になる可能性もあるのです。
火星で暮らすことはロマンチックなことと捉えることができますが、その環境がいかに人類にとって過酷かがわかります。仮に無事火星に着陸でき、また先端技術を駆使することができても、そこにすっかり順応することは人類の大きな課題となりそうです。
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