地球上の生命のルーツに関する仮説の1つに「リソパンスペルミア説」という説がありますが、これは宇宙の他の天体で発生した後、地球に飛来した微生物もしくは細菌などが、地球上の最初の生命であるという「パンスペルミア説」の頭に、岩石を意味する「リソ」が付いたものです。
具体的には、生命の起源となったと考えられる微生物もしくは細菌の芽胞が付着した岩塊が、衝突などの現象によって隕石や彗星となって宇宙に放出され、地球へ飛来してきたという仮説です。
確かに空想の域を越えない、SFの世界の話のようですが、近年では その信憑性が高まってきていて、実際にロシアの最新研究では、この仮説が正しいことを証明できる証拠を発見したそうです。
今回は、「リソパンスペルミア説」を中心に、地球上の生命のルーツについて紹介します。
「リソパンスペルミア説」の登場
「リソパンスペルミア説」は古代ギリシアの時代には既に登場していたのですが、この仮説が広く受け入れられるようになったのは、スウェーデンの物理学者スヴァンテ・アレニウス氏が1900年代初頭に、「広い宇宙を漂う隕石の中には、過酷な環境に耐えられる芽胞が付着しているものがあり、そうした隕石が惑星の重力の影響を受けて惑星に落下し、その惑星の地上の環境が付着していた芽胞などに適切だった場合には発芽、繁殖し、進化の道筋を辿ることになる」という理論を提唱してからだと言われています。
「アレニウスの理論」を裏付ける様々な証拠
スヴァンテ・アレニウス氏が提唱した理論は、にわかには信じ難い内容で、証拠も乏しく、1世紀もの間、単なる推測にすぎないと見られていました。
しかし、21世紀になると、この理論を裏付ける様々な証拠が集まり始めました。
まず、芽胞は宇宙線の影響を受けない環境に守られている限り、宇宙で生存可能なことが判明し、芽胞を隕石の中に入れて実験した結果、他の惑星において活動できるレベルまで増殖したのです。
その後も、生存可能と判断できる微生物や細菌の数は増え続け、「アレニウスの理論」は部分的ではありますが、成立できることが分かったのです。
もちろん、宇宙空間で芽胞が生存可能だからといって、地球上の最初の生命が宇宙の他の天体からの微生物や細菌であるということを保証できるわけではありません。
実際、隕石が地球の大気圏に突入するタイミングによっては、今日のような生命にとって適切な環境とは言えないこともあり得るわけで、気温、大気の成分構成、栄養分の供給バランスなどが極端な場合も考えられます。
しかし一方で、地球上に生息する種の一部には、過酷な環境下において生存できるものもあり、例えば「好極限性細菌」と名付けられた細菌の一種は、その名に相応しく先史時代の環境下でも繁殖することが可能です。
しかし、例え微生物や細菌の一種に宇宙と地上の双方での生存能力が備わっていたとしても、大気圏に突入する時のストレスに耐えられなければ意味がありません。
大気圏突入時の摩擦熱は、最も頑強だといわれている生物でさえも殺してしまう可能性があるためです。
現実には、大気圏突入時の摩擦熱に生物が耐えられるという証拠は乏しく、2010年の研究で行った藻類を大気圏に突入させる実験では、生き残ったものはありませんでした。
また、2014年の実験では、DNAが生き残ることは確認できましたが、生命活動を期待することは不可能でした。
「リソパンスペルミア説」を裏付ける新発見
しかし2015年7月、ロシアの科学チームによって、隕石の内部に埋め込んだ微生物が大気圏への突入プロセスを生き残り、成長の開始が可能なことが確認できたことで、「アレニウスの理論」は強力な後押しを得ることができました。
この結果によって、地球上の最初の生命である種を突き止める研究が加速するかもしれません。
ロシアの科学チームが実験に使用したのは、1999年にロシアのカリムスキー火山付近の火道で見つかった耐熱性極限環境微生物で、この微生物は高温に耐えることが可能で、鉄分があっても成長でき、高ストレス環境下で芽胞を形成するという特徴があり、大気圏突入の実験には打って付けの微生物だったのです。
この微生物を培養した後、乾燥させ、実験用に玄武岩で製作した直径7cmほどの人工隕石の中に埋め込み、これを人工衛星フォトンM4の外側に装着して、衛星軌道まで打ち上げました。
そして打ち上げから45日後、フォトンM4は大気圏へ再突入し、980度以上という超ストレス条件に隕石を曝すという過酷な実験を行い、パラシュートによってフォトンM4と人工隕石は無事に帰還したのです。
研究室では、隕石から回収した微生物を媒体に入れ、回収後の外部からの汚染を確実にシャットアウトするために厳密な無菌管理が行われる中で、成長のサインの有無が観察されました。
その結果、5日後には24標本中4つの標本の成長が確認され、外部の汚染は無く、これらの生命の芽生えが実験標本からのものであるという確証を得たのです。
この耐熱性極限環境微生物が、果たして原初の生命に似ているのかどうかという疑問は残りますが、「リソパンスペルミア説」そのものは現実的だということは証明できたと言えるでしょう。
ただ今回の実験は、微生物が大気圏突入のストレスを受けても生存できることを初めて記録したもので、ようやく端緒についたにすぎません。
今後は、この耐熱性極限環境微生物の実験を陽性対照として、他の細菌でも実験が行われるだけでなく、より科学的に妥当な実験も行われることでしょう。「リソパンスペルミア説」の真相解明に向けた道のりは、一歩一歩確実に進んでいると言える今を踏まえ、いつの日か、地球上の最初の生命のルーツが明らかになるかもしれません。
地球上の生物のDNA構成分子が、地球外にも存在する
地球上の生物の遺伝子の設計図と言われるDNAの構成分子が、地球外にも存在することを示す初の証拠が見つかり、地球上の生命が地球外の物質に由来するという説を支持する結果として、米科学アカデミー紀要の電子版に論文が掲載されました。
論文によると、米航空宇宙局などのチームは、南極などで発見した炭素を多く含有する隕石12個を分析し、DNAの遺伝暗号の文字に当たる塩基四種類の内、アデニンとグアニンを確認したそうです。
過去にも隕石からこれらの種の構成分子を発見したことはありましたが、地球上の生物の構成分子が付着した可能性が否定できず、断定的なことが言えなかったそうです。
今回の分析では、隕石からは地球上の生物のDNAを構成しない別の分子も同時に発見され、それらの分子が、隕石が見つかった地域の氷などから全く発見できなかったことなどと合わせて、アデニンとグアニンは地球外から飛来したと判断したのです。
また今回確認されたアデニンとグアニンは、非生物学的な反応で生じたことも判明し、隕石を生み出したと考えられる小惑星などのように、生物が生息できない過酷な環境下でもこれら分子が合成される可能性を示しているのです。
様々な実験や分析によって、地球上の最初の生命が宇宙の他の天体から飛来したことを証明する証拠が発見され、集まり始めています。こうした事実を見てみると、地球以外の宇宙に未知なる生命体が存在することを一番待ち望んでいるのは、他ならぬアメリカやロシアの宇宙研究者たちなのかもしれません。
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