人類の火星移住計画は、いつの日か現実のものとなるのでしょうか。火星は地球に比べて気温も低く、生命活動に必要な酸素も存在しないため、人間が住むにはかなり不都合な環境です。
現在、人間が火星に移住するための研究は着々と進んでおり、ゆくゆくは火星に大気を人工的に作り出し、気温を上昇させるような技術が完成するかもしれません。
今回は本物の火星に移住する前の予習として、地球上にある火星によく似た場所を7つご紹介いたします。
マウナロア
ハワイにある有名な活火山であるマウナロアの頂上には、モクアウェオウェオ・クレーターと呼ばれるクレータがあります。
この場所は、周辺が溶岩に覆われているため火星の環境に非常に近く、火星への長期滞在を擬似的に訓練するNASAの施設があるほどです。
この施設はマウナロアの山腹に建設された2階建ての施設で、ドーム型の屋根と発電用のソーラーパネルが特徴です。
ハワイ大学がNASAの後援を受けて、2016年8月までこの施設でHI-SEASという火星探索の疑似訓練を行いました。訓練では6人のメンバーが共有スペースで生活します。
食事は缶詰などの宇宙食、シャワーの利用も制限され、屋外での活動は 宇宙服の着用が義務付けられるなど火星での生活が徹底的に再現されています。また被験者たちの生活は 遠隔地からリアルタイムで研究者に観察されます。
ボストーク湖
南極大陸の南極点付近に、長さ230km、幅40km、深さ792mの世界最大の氷底湖であるボストーク湖があります。これは氷河の4kmほど下にあり、周辺にはロシアのボストーク研究所が建てられています。
この湖は1500万年以上前から氷河に覆われていたと推定され、太陽光や大気が完全に遮断されているため地球上で最も厳しい環境の一つに数えられます。
この場所が初めて発見されたのは1960年代のことです。ロシアのパイロットが飛行中、氷上の一帯に他とは明らかに異なる滑らかな氷が張っている箇所を発見し、湖が氷の下に埋もれていることに気が付いたのです。
ボストーク湖周辺の平均気温は−26℃くらいであるのに対して湖の水温はかなり温かく、およそ−2.7℃程度だと分かっています。これは、分厚い氷が湖を覆って保温しているからです。
比較的水温が高いことに加え、水質が淡水であることも作用して、生物がほとんどいない南極のなかでもこの湖には数多くの微生物が生息していることが分かっています。
これは似たような過酷な環境の火星にも生物が生息できる場所が存在し得るという根拠になります。
マクマードオアシス
南極のマクマード入江の西、ロス島の対岸にマクマードオアシスという永久凍土からなる一連の谷があります。この場所は火星の北部と似た環境であるといわれています。
マクマードオアシスには栄養分や水が残らないはずの氷点下でも、いくつかの微生物が生息しているのが確認されています。
このような環境下で微生物がゆっくりと成長しているというのは、火星の生命の存在を予測する手がかりとなるかもしれません。
火星の北極点は、かつて太陽光が十分に当たっていて生命が育まれるような環境だったと考えられています。その生命は今も生きているのでしょうか?
その疑問を解明するために、研究者たちは火星の北極の土壌面によく似た環境であるマクマードオアシスをさまざまな機材を使用して試験的に採掘することで、火星の採掘調査に適した機材を選定しています。
アタカマ砂漠
チリのアタカマ砂漠は、100kmにも及ぶ広大な高原にあり、極度に乾燥していることから地球上で最も火星の環境に似ている場所のひとつとして知られています。
数十年に1日しか雨が振らないという極端に少ない降水量も乾燥の理由です。この場所では、2004年にNASAの後援を受けて火星で生物が生きられるのかという実験が行われました。
実験の内容は非常にシンプルで、何人かの研究員がアタカマ砂漠で1ヶ月間生活しながら砂漠を探索するというものです。この実験の途中、驚くべき発見がありました。
極度に乾燥したアタカマ砂漠の中央に微生物が存在することが確認されたのです。
一般的に生物が存在するはずがないと考えられていた極度の乾燥地帯で微生物が発見されたということは、火星に何らかの生物が存在し得るという根拠になります。
ワシントン州立大学の教授をはじめとする実験に関わった研究者たちは「地球で最も乾燥しているアタカマ砂漠で生活する微生物が存在するのであれば、火星に生命が存在する可能性はある」と主張していますが、一方で「火星とは気温や大気の有無が違うので同様に考えることはできないのではないか」という懐疑的な意見もあります。
オリサバ山
オリサバ山は、メキシコ南部、メキシコ高原の端に位置する火山です。1687年から火山活動は観測されていません。5610kmという北アメリカで3番目に標高が高い山としても知られています。
人類の火星への移住において、そのままの環境で人間が生活することはできないので、どのように人間が生活できるような仕組みを整えるかということが課題になっています。
オリサバ山は地球上で最も森林限界が高い山です。森林限界とは気温や風、降水などの気候的な影響で木が育たなくなる限界の高度のことです。
森林限界は場所によって異なりますが、オリサバ山の森林限界は、標高3900m付近です。研究者たちはそこに目をつけ、この場所で火星に人類の生活環境を作り出すための実験を行っています。
彼らは、温室効果ガスを発生させて気圧を上げ、植物が光合成できるような環境を作り出せば、人間の生命活動に欠かせない大気を生み出すことができると考えたのです。
実験の結果、火星の気温を5℃まで上昇させることができれば、植物はなんとか光合成で大気を生み出すことができるという結論に至りました。
デスバレー
アメリカ、カリフォルニア州にあるデスバレーには古代からの岩の層が残されているため、数十年に渡って大規模な実験や観察が行われてきました。
NASAもマーズ・サイエンス・ラボラトリーという火星の無人探査機の試験運転にこの場所を選びました。デスバレーはアメリカで最も気温が高く、乾燥していて標高の高い場所です。
面積は13000km²を超え、気温は火星より少し高いものの、土壌が火星とよく似ているそうです。デスバレーは近道をしようとして立ち寄った人が死亡するような危険な場所ですが、マースフェスタという興味深いイベントが毎年開催されています。
このイベントでは実験関係者だけでなく、一般市民も参加してデスバレーと火星の環境について意見交換を行います。このイベントに参加すれば、デスバレーの砂丘や火山地帯、クレーターを安全に探索することができます。
火星への移住を可能にするための計画は着々と進められています。火星と似た環境を地球上で再現して実験するというのは少し無理があるような気もしますが、本物の火星に行く前に、地球上にある火星の環境によく似た場所を訪れて予習してみるのもよいかもしれません。今の科学力ではまだ火星は遠い存在なので、これからの研究の進歩に期待しましょう。
コメント