量子コンピューターは今やコンピューター科学における大きなトレンドです。10年後には、史上初の完全な量子コンピューターができ上がると予測されています。
最近でもIBMが商用の量子コンピューターを発表したというニュースがありましたが、今後は「量子」というキーワードに注目してみましょう。
現在量子コンピューターの利用例は少数ですが、その活躍は想像以上です。
ゲーム
量子コンピューターの高速な演算処理は、ゲーマーの関心を惹くはずです。非常に滑らかなフレームレートを用いたゲームが楽しめるのではないでしょうか。
「クオンタム・バトルシップ」など、量子コンピューターで開発されたゲームは少数ながら存在します。
なお、マイクロソフトが開発するQ#というプログラム言語は、従来型コンピューターでも量子コンピューターでも利用できるよう設計されています。
個人に合わせた広告の表示
ウェブページの広告に嫌悪感を抱く人もいますが、最近ではユーザーの閲覧履歴に応じた広告であるマッチング広告が表示されるようになっています。
その機能もまだ完全ではありません。そこでリクルートコミュニケーションズは、量子アニーリングという計算技術を用いて、個人に合わせた広告を表示する方法を開発しています。
正確な天気予報
2017年、量子コンピューターによるこれまで以上に正確な天気予報に関する論文が発表されました。
量子コンピューターなら動的量子クラスタリングという手法で、従来のコンピューターではあり得なかった速度でのデータ処理が可能になります。
100%確実な予報ができる訳ではないものの、外出中傘を持って来れば良かったと後悔する事は格段に減るでしょう。
量子暗号技術
「ポスト量子暗号技術」とは、本来量子コンピューターによる暗号破りを防ぐ技術の事ですが、ここでの量子暗号技術は、量子力学を利用した暗号技術の事です。
量子暗号技術はもつれた量子ビットのペアを用いるものであり、その片方は受信者に送られ、もう片方は送信者が持っています。
重なり合った状態のもつれた粒子は、片方が影響を受けると、もう片方の量子ビットにも影響を与えます。
量子ビットが複製できない事から盗聴が不可能な点などを理由に、この量子ビットのストリームは、暗号の鍵で守られているも同然です。
より人間らしいAI
コンピューター科学の世界では人工知能も大流行です。
機械学習やニューラルネットワークを通じ、より人間らしいAIを作るための研究が続けられています。どこか恐ろしさも感じますが、量子コンピューターならその次元を1つ引き上げるでしょう。
まず、ニューラルネットワークはマトリックスに基づくデータセット上で稼働し、行列代数によって計算されます。
一方で量子コンピューターでの演算は、マトリックスを利用して、量子ビットの量子状態を定義・決定するという形でなされます。
そのために、ニューラルネットワーク上の演算処理と量子ビット上の変換量子ゲートの利用はよく似ているのです。
故に量子コンピューターは、AIに組み込まれているニューラルネットワークとは相性が良い傾向にあります。加えて、量子コンピューターなら機械学習の速度を飛躍的に向上させられます。
それを理由に、グーグルはAIの研究のためとして量子コンピューターに投資するのです。
暗号を破る
量子コンピューターの登場により、RSA法やDSA法のような暗号技術は破られるのではと懸念されています。
素因数に基づき暗号鍵を生成する、一部の暗号技術についてはその通りです。
「ショアのアルゴリズム」を量子コンピューターで走らせれば、鍵を作るために使われた素因数を効率良く探し出す事ができます。
素数に頼らない暗号技術も存在しますが、それについても「グローバーのアルゴリズム」を使えば、従来型コンピューター以上に早く鍵を発見できるでしょう。
ところが、それによる効率化はショアのアルゴリズムには劣ります。
したがって、これらの暗号技術を破るには、今ある量子コンピューター以上の処理速度を持つ機体が必要でしょう。
また、そのような機体をもってしても、突破不可能な暗号技術があります。それが先述のポスト量子暗号技術を利用したものです。
分子のシミュレーション
生物学や化学の分野では、分子構造やそれらの相互作用を理解するため、また新たな分子を発見するためなどの手段として、分子シミュレーションが極めて重要なのです。
従来型コンピューターではそうしたシミュレーションを行う事に限界がある一方、量子コンピューターであれば、そんな事はありません。
これまでの段階では小さな分子のシミュレーションにしか試された事がありませんが、それは7量子ビットのチップで行われたものです。
より多くの量子ビットが利用可能になれば、非常に複雑な分子でもシミュレーション可能になるでしょう。
量子ビットの増量に伴い、量子コンピューターの処理能力は指数関数的に向上するのです。
モバイルデータの受信エリア
スマホが繋がりにくい時、近くのカフェのWi-Fiを使うのも1つの手です。
しかし、ブーズ・アレン・ハミルトンの考案した解決策の方がよりスマートでしょう。
この会社では、従来のコンピューターでは最適化された衛星の受信サービスエリアを見つけるのは極めて困難という見解を示しています。
しかし、世界初の商用コンピューターとされるD-WaveでQUBO(二次制約なし二値最適化)をすれば、最適な衛星サービスエリアを特定できます。
電波の弱い地域全ての受信状態が良くなるとは限りませんが、電波の繋がるスポットが見つかる可能性は跳ね上がるでしょう。
交通渋滞の改善
グーグルは通勤、通学時の渋滞の問題に取り組んでおり、交通をモニターして空いているルートを示す技術を開発してきました。
そんな中、2017年に登場したフォルクスワーゲンによる次世代の技術は、交通をモニターするというよりは、交通の流れ自体を最適化するという試みです。
量子アニーリングコンピューターでQUBOを行い、設定された車の台数と進行可能なルートを元に最適なルートを見つけるという実験が行われました。
結果、従来型コンピューターの提示するルートと比較してもより早く目的地にたどり着く事が可能なルートを提示できました。
しかし、フォルクスワーゲンがD-Waveを採用していた事で、この実験結果を疑う声もあります。D-Waveでそのような高速化が可能とは考えにくいためです。
がん治療の改善
世界的に見てもがんは主な死因ですが、初期であれば治る事も多いです。
代表的な治療法は外科手術による切除ですが、放射線治療もまた一般的な方法です。
放射線治療では、放射線ビームを最適化し、がん周辺の健康な細胞や組織への損傷を抑える事が重要です。
従来型コンピューターで放射線ビームの最適化を行う方法が複数ありましたが、D-Waveでその速度を3倍から4倍に上げる方法が2015年に登場しました。
その方法を考案したのは、米ロズウェルパークがん研究所の研究者です。
いつの日か、量子ドラクエと呼べるようなゲームが登場するかもしれません。
今後の量子コンピューターの更なる発展に期待しましょう。
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