皆さんは、アポロ計画で月面に残された レーザー反射鏡の存在をご存知でしょうか?
コーナーキューブプリズムとも呼ばれ、地球から照射されたレーザーを反射し、その光が戻るまでの時間を測定することで、地球と月の距離を正確に求めるために設置されました。
今回は、その実験の詳細と、その結果どのような研究成果が得られつつあるのかについてお話ししていきたいと思います。
レーザー反射鏡とは
レーザー反射鏡は、向かってきた方向に、光を正確に反射して返す光学装置です。
形としては立方体のコーナーで見られるような、相互に直角な面をもつ3面鏡となっています。
もし、これら3つの表面が反射性を持っている場合、光線はそれぞれの面を順番に跳ね返し、最終的に正確に180度ターンして返されることになります。
身近なもので言うと、自転車の反射鏡、車のテールライトカバーや道路標識といったものに使われています。
月レーザー測距実験とは
月レーザー測距実験(Lunar Laser Ranging experiment)は、LIDAR を用いた地球と月の距離の測定のことを言います。
地球上のレーザーで、アポロ計画により月面に設置された再帰反射器(コーナーキューブ)を狙い、反射した光が戻ってくるまでの時間を測定するのです。
LIDAR (Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)とは「光検出と測距」ないし「レーザー画像検出と測距」のことで、光を用いたリモートセンシング技術の一つです。
パルス状に発光するレーザー照射に対する散乱光を測定し、遠距離にある対象までの距離やその対象の性質を分析します。
実験の目的
レーザー反射鏡を使ったレーザー測距実験は、長期間にわたり地球から月の距離を正確に測ることを主な目的としています。
レーザー反射鏡は、どこに光があたっても入射角と反射角が一致する特性を持っています。
人類は光の速度を知っていて数十億分の1秒の正確さで測定することができます。
ですから、地球から照射された光が、月に行って帰って来るのにかかった時間から15cmの誤差で地球と月の距離を測定することができるのです。
それにより得られたデータは、地球の回転速度の変動や、地球の軸上のぐらつき、月の正確な大きさと軌道、重力定数「G」の変動の可能性などの研究に用いられています。
アポロとルノホート
1962年、マサチューセッツ工科大学の研究チームが初めて反射レーザーのミリ秒パルスを観測することに成功しました。
同様の測定は、クリミア天体物理天文台の研究チームによっても、Qスイッチのルビーレーザーを用いて行われています。
1969年7月21日にはアポロ11号の乗組員によってコーナーキューブが月面に設置されました。
それにより精度が更に向上したのです。
その後、アポロ14号とアポロ15号により、さらに2つのコーナーキューブが設置されました。
「実際にアポロが運んだレーザー反射鏡は、石英ガラス(クオーツ)でできた直径3.8cmのコーナキューブプリズムで構成されています。
アポロ11号では、45cmの正方形をしたパレットに、10×10、100個のコーナーキューブプリズムをならべた物が使用されました。
アポロ14号でもほとんど同じデザインのものが使われています。
月が満ち欠けすることでコーナーキューブが受ける太陽光線は激しく変動します。
そんな中でもコーナーキューブからの熱による影響を最小化するよう注意深く設計されています。
このようにして、反射鏡によって地球に戻る光の量を著しく低下させる熱によるパレットの歪みを防止しているのです。」
アポロ15号が運んだコーナーキューブは、先の2度のアポロ計画で設置されたものと比べて3倍の大きさのものでした。
その大きさにより、最初の25年間で行われた実験の4分の3で利用されてきました。
その後、技術の進歩によって、より小さなコーナーキューブが用いられるようになったのです。
月までの距離の測定は、リック天文台、アリゾナ州のケンブリッジ研究所 月測距観測所、フランスのピク・デュ・ミディ天文台、東京天文台、テキサス州のマクドナルド天文台によって初めて報告されています。
ソビエト連邦のルノホート1号とルノホート2号によっても同様のコーナーキューブが月面に運ばれました。
ルノホート1号からの反射シグナルは設置当初、しっかりと受信されていました。
しかし1971年以降は、2010年4月にカリフォルニア大学の研究チームがルナー・リコネサンス・オービターの画像からコーナーキューブを再発見するまで、検出されることはありませんでした。
ルノホートのコーナーキューブは、アポロ計画のものと同じように、太陽光を直接受け続けたために少しずつ性能が落ちていっています。
実験の詳細
月までの距離は、次の式を用いて概算値を求めることができます。
距離 = (光速 × 往復の時間) / 2
地球から照射された光が月のコーナキューブに反射されて戻るまでの時間は、約2.5秒です。
実際には地球と月の相対運動、地球の自転、月の秤動、気象、極運動、地球の大気による伝播遅延、地殻運動や潮汐作用による観測局の運動、大気中の経路による光速の差、相対性理論による効果等の様々な影響を受けています。
にも拘らず、地球と月の間の距離は非常に高い精度で求められています。観測毎の距離に違いはあるものの、平均値は約38万4,467kmでした。
月面に対し、地球からの光はわずか約6.5kmの幅であり、これは投げられた硬貨を3km離れたところからライフル銃で撃つようなものです。
反射光は人間の目には見えないほど弱く、数秒毎に1017個の光子が反射器に向けて発射されていますが、そのうち地球に戻ってくるのは、どんなに良い条件が揃っている時でも、わずか1個しかないのです。
レーザーは高度にモノクロームであるため、この光子はレーザーを反射したものだと判断できます。
これは、ロサンゼルスとニューヨークの間の距離を100分の1インチの精度で測定することに匹敵する、人類史上最も正確な距離測定だと言えるのです。
月面の反射器の存在は、アポロ計画陰謀論への反証としても利用されてきました。
例えば、APOLLO Collaborationの光子パルスのパターンは、既知の着陸地点の付近に反射器が存在することの証明となっています。
実験による発見
月は、通常では考えられないスピードで地球かららせん状に遠ざかっています。
長年の研究により、年間3.8cmの速さだとわかっています。
そして、月には恐らく半径の20%程度の液体の核をがあることも、この実験により予測されました。
この実験では、1969年以降、ニュートンの重力定数Gの上限を 1011分の1引き上げただけという結果が出ています。
万有引力理論は非常に安定しているのです。
また、驚くべきことに、アインシュタインの一般相対性理論は、月の軌道を高い精度で予測していることもわかりました。
2002年時点で、太陽光などの影響により反射器の性能は年を経る事に悪くなっています。
しかし、月と地球の間の距離をmm単位の精確さで測定するための研究が続けられています。
人類が月面に残してきた、わずか数十センチ程の小さな鏡に、興味を持っていただけたでしょうか?この実験で長年蓄積されてきたデータにより、地球と月がお互いにどのような関係にあるのか、どのように影響し合っているのかがわかってきます。そして、目に見えない月の内面まで私たち人類は知ろうとしているのです。もしかしたら、いつか月と地球は遠く離れ離れになり、お互いに干渉し合わない存在となるかもしれません。これからも、月レーザー測距実験の研究結果に注視していきましょう。
参考:Weblio辞書, TOKYO EXPRESS, Wikipedia,など
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