男らしさと攻撃性は反比例
昭和の不良漫画の主人公は、「つっぱることが男のたった一つの勲章だ」という言葉もあるように、威風堂々と周囲を睨みつけながら歩き、他の不良と出会おうものなら、すぐさま喧嘩を始めてしまいます。
このようなキャラクターは往々にして体格もたくましく、顔つきも強面。
それとは対照的に、『ドラえもん』に登場するのび太くんのような、メガネで男らしさにかける貧弱なキャラクターは地味で控えめな性格をしています。
このような漫画のイメージの影響もあって、私たちは「男らしい人ほど攻撃的で、貧弱そうな人ほどおとなしい」と思い込んでいます。しかしながら、漫画のキャラクターのイメージと現実世界の人間の性格は大きく異なるものです。
CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が2012年に行った研究により、「自分には男らしさがない」と自覚している人ほど攻撃的な傾向が強いということがわかりました。
男らしさがないことに悩みを感じている人はさらにその傾向が強いそうです。
反対に、誰が見てもたくましいと思えるような男性は「自分は男らしい男だ」という自信を持っているため、ストレスや悩みを感じることが少なく、攻撃的な傾向は比較的弱かったのです。
この研究から、人間が攻撃的になってしまう大きな原因のひとつは、社会的な評価としての「男らしく、たくましい」姿と実際の自分の姿との隔たりから生じるストレスであるということがわかりました。
銃を見るだけで攻撃的になる
世界的に見ても、日本は治安がよく安全な国です。
犯罪件数は年々減少しており、2018年には犯罪発生件数が戦後最少となりました。日本で凶悪事件が少ないのは、銃の禁止の効果が大きいからだといわれています。
これは、銃を使った強盗や恐喝などの犯罪行為ができないからという単純な理由もありますが、銃の禁止による効果はそれだけではありません。
アメリカのオハイオ州立大学(OSU)で心理学を研究しているブラッド=ブッシュマン氏の研究によると、人間は銃などの武器をただ”見る”だけでも攻撃性が一気に高まるそうです。
武器を見ると本能的に危険を感じ、身を守るために他者への攻撃的な感情や敵対意識が高まるのです。
これは自分では気づかないうちに反射的に起こってしまう反応です。
もちろん、この反応は銃だけでなく、ナイフや手榴弾といった危険を感じる武器ならば何でも起こります。
また、ある実験によると、銃を積んでいるトラックの後ろを走る車は、銃を積んでいないトラックの後ろを走る車に比べて、運転中にクラクションを鳴らす頻度が数倍高くなるそうです。
銃が目に入っただけで運転手の攻撃性が高まるということが実証されました。
猫の飼育と怒りの関係
間欠性爆発性障害(IED)という病気があります。
この病気になると、ふとした瞬間に急激に怒りが爆発して、周りの人に罵詈雑言を浴びせてしまいます。症状が出るのは1週間に2回ほど。重症化すると1年に2〜3回程度、暴力を伴う激しい症状を起こしてしまうことがあります。
イリノイ州シカゴ大学のエミリ=コッカロ氏が主導した研究で、IEDの患者は、一般の人と比べてトキソプラズマ症に感染している人の割合が高いということがわかりました。
この病気はトキソプラズマという原生生物によって引き起こされる感染症です。
トキソプラズマ症に感染すると脳内で炎症が起こり、感情が攻撃的になってしまう可能性があるため、IEDとトキソプラズマ症には何らかの関係性があると考えられます。
身の回りのもので、トキソプラズマが混入している可能性があるものは生肉や猫の糞などです。
生肉を食べることは避けたほうが良いですが、IEDになることを防ぐために無理に猫を避けたり、飼うのをやめたりする必要はありません。
猫を飼うと必ずトキソプラズマ症に感染するというわけではなく、感染したからと言って必ずIEDを発症するというわけでもないからです。一般の人と比べて多いというだけで、IED患者の中でトキソプラズマ症に感染している人の割合は2割ほどに過ぎません。
ただし、日本の厚生労働省によると、トキソプラズマ症の胎内感染を防ぐために、妊婦が猫の糞を処理するのはやめておいたほうが良いとのことです。
タトゥーは社会への反抗
海外ではファッションとしてタトゥーを入れることもありますが、日本では体の目立つ場所に大きなタトゥーを入れている人はほとんどいません。
タトゥーは怖いというイメージもありますが、タトゥーを入れることと人間の攻撃性は何か関係しているのでしょうか。
東イングランドにあるアングリア・ラスキン大学の研究によると、タトゥーを入れている人はそうでない人に比べて、怒りの爆発や暴言の頻度、態度の悪さの程度が著しく高いということがわかりました。
タトゥーそのものが悪いというわけではなく、タトゥーを入れようと考えるきっかけに原因があるのです。
タトゥーを入れる人の多くは、何か気に入らないことがあったときに社会に対して反抗的な態度を取ります。
その反抗的な態度を表現するためにタトゥーを入れるのです。これは20代から50代までの幅広い年齢層にわたる378人への調査から統計的にわかった結果です。
また、服に隠れてしまうような場所に小さなタトゥーを入れている人よりも、体中に大きなタトゥーを入れている人のほうが攻撃的な傾向は強いということになるかもしれません。
暴力的なゲームは悪くない
アメリカ国内で頻発する銃撃事件を受け、トランプ大統領は暴力的なゲームを取り締まる必要があると発言しました。
2018年3月にはゲーム関係者とトランプ大統領の会談も実施されていたようです。
ゲームの暴力性が問題視されるようになったのは、決して最近のことではありません。
以前から凶悪事件が発生するたびにそのようなゲームが批判されてきました。
しかし、本当にゲームの中の暴力と実際の人間の攻撃性は関係しているのでしょうか。
これについては賛否が分かれるところですが、オックスフォード大学で実施された威信性の高い研究データによると、ゲームの中の暴力と、
それをプレイした人間の攻撃性に直接的な関係は無いということがわかりました。
ゲームが人間の攻撃性に影響を与えるとするならば、その原因はゲームの暴力性ではなく難易度にあるのです。
暴力や犯罪に関係ないジャンルでも、難易度が高くてなかなか先に進めなかったり、操作があまりに複雑でミスが多発したりするようなゲームは、プレイヤーの攻撃性を一気に高めるのです。
たとえ、かわいらしい絵柄のパズルゲームであっても、難易度が高く操作が難しければプレイヤーが凶暴化することもあります。
反対に、犯罪や暴力、殺人に関するゲームでも簡単に先に進めて爽快感が得られるものならばプレイヤーの攻撃性が高まることはないのです。
人間は意外な理由で攻撃的になってしまうものです。ゲーム内の暴力は人間の攻撃性に関係ないといっても、暴力を伴うゲームは難易度が高いものが多いので、そのようなゲームを規制すべきだという意見も的外れとは言えません。銃を見るだけで攻撃性が高まるというデータもあることから、難易度の高い対戦形式のシューティングゲームは人の攻撃性に莫大な影響を与えるということになります。日常生活の中でストレスをためないようにすることが大切なのではないでしょうか?
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