学生時代、太陽系の惑星の並び順を「水金地火木土天海冥」と教わった人も多いのではないでしょうか?
しかし、現在では冥王星が惑星から外れているので、学校でも「水金地火木土天海」と教えられることが多いようです。
このように変わったのは、2006年のことです。IAU(国際天文学連合)が2006年8月、総会で惑星の基準と分類を見直すことを発表したのです。
しかし、それから十数年たった現在でも、その見直しが正しかったのかどうか議論が続いています。
そして、近年とある研究チームが惑星の定義を見直した根拠が間違っていたという証拠を発表しました。
今回は、冥王星とその衛星の環境、IAUの判断の経緯などを ご紹介します。
冥王星の正体
冥王星はトランスネプチュニアン天体のひとつです。
冥王星の周囲には、大きさが主星の半分を超える天然衛星もあるので、冥王星は2つの惑星が公転の重心を共有している「二重惑星」と考えられています。
冥王星の Pluto(プルート)という名前は、ローマ神話において冥界を司る神であるPlūtō(プルート)に由来しています。
特殊な軌道
一般的な太陽系の惑星は、黄道を含む平面を正円形に公転しています。
これに対して冥王星は、地球の平均的な公転軌道面である黄道面からわずかに傾いており、楕円形を描いて公転しています。
これはきわめて特殊な公転軌道だといえます。
冥王星の大きさ
冥王星の直径は2376kmくらいです。これは地球の衛星である、月を下回る大きさです。
また、質量は月の5分の1ほどしか無いことがわかっています。しかし、以前は地球と同等の質量を持つ天体だと考えられていました。
このような誤解が生まれた原因は、冥王星を主星だけでなく、衛星まで1つの同じ天体として数えてしまっていたことです。
冥王星の衛星には、主星よりも大きなものもあるので、未熟な観測技術のもとではこのような誤解が生まれるのも無理はありません。
冥王星に人が到達すると
冥王星は、地球の0.06倍程度の重力しかありません。冥王星では体重60kgの男性が3.6kgになってしまうのです。
冥王星への有人飛行はまだ実施されていませんが、冥王星ではかなり重量のある宇宙服を身に着けなければ行動もままならないでしょう。
未知の天体
冥王星は1930年に発見されました。この発見には天王星と海王星の存在が大きく関わっています。
数十年前、自然哲学者であるアイザック=ニュートンは、天王星の軌道が規則的でないことを発見しました。
これには、なんらかの天体の引力が関係していると考えたニュートンは研究を進め、1840年に海王星の存在や、位置について仮説を立てました。
その6年後には、実際に海王星が観測されたのです。その後、海王星も天王星と同様に何らかの天体によって軌道が乱れていることがわかりました。
海王星の軌道を乱している未知の天体を、専門家たちは探し続けました。
そして1930年についにその未知の天体を発見したのです。その天体こそが冥王星でした。
IAUによる「見直し」の判断
冥王星は、1930年に発見されました。
それから2006年まで、実に76年もの間、太陽系の惑星といえば「水金地火木土天海冥」の9つだったのです。
しかし、定義自体が変わってしまったために、冥王星は惑星の座を奪われました。
2006年、8月の総会でIAUは、その天体が惑星であるかそうでないかを判断し、分類する定義に新たに次の3つを追加したことを発表しました。
ある天体の軌道上に他の岩石があったとき、天体がそれらを引き寄せて合体したり、ぶつかって弾き出したりすることができれば、その天体は2つ目の条件を満たしているといえます。
しかし、冥王星は、エッジワース・カイパーベルト上にある無数の天体と公転軌道が一致しているため、2つ目の条件を満たしません。
2006年に導入された新たな条件を知ると、太陽系の惑星がひとつ減ってしまった理由がわかります。
IAUの判断に対する反応
IAUの行った見直しについて、アメリカ国内では特に懐疑の声が多く上がっています。
IAUの判断に反対する形で2007年、ニューメキシコ州は「冥王星を惑星とする記念日」を3月17日に設定しました。
冥王星を発見したのは、アメリカ人の天文台職員、クライド=トンボーです。彼は当時まだ24歳という若さでした。
アメリカ人が発見した天体ということもあり、アメリカ国内での冥王星の人気は高かったために、IAUの判断への非難も多いのです。
IAUの見直しは間違っていた
冥王星を矮星に降格した根拠は、新たに適用された条件のひとつである「単独で公転しており、その軌道上に他の天体があってはならない」を満たしていないということでした。
しかし、この条件は科学的な文献に基づいて決められたものではないのです。
セントラルフロリダ大学の研究員たちは、「単独で公転しており、その軌道上に他の天体があってはならない」という条件を定めている文献は、1802年に提出された1件の論文しかないということを突き止めました。
さらに、その論文の推論は、現在では間違いだとされています。十分な根拠と正当性のない条件が追加されていたのです。
元来の性質を考えるべき
研究チームは「惑星の定義は他の天体との兼ね合いなどといった変動しやすい条件ではなく、外部からの影響を受けずに、その天体が本質的に持っている元来の性質を考慮して定めるべきだ」と主張しています。
IAUが新たに定めた定義のうち、「単独で公転しており、その軌道上に他の天体があってはならない」という条件は他の天体の重力との兼ね合いで決まる力学的なものであり、天体の本質を考えたものではありません。
理論天体物理学者であるイーサン・シーゲル博士は、天体の位置を元に惑星を定義すべきだと主張し、フィリップ・メッツガー博士は天体の形状と重力を元に定義すべきだと主張しています。
惑星を定義することは難しい
実際には、「惑星」という言葉をIAUが定めた定義に沿った意味で使っている研究者はほとんどいません。
IAUの定義に反する形で使用されている研究の例は、現在100件を超えているそうです。
ガリレオをはじめとする権威ある研究者ですら、論文の中で頻繁にエウロパやタイタンを「惑星」と呼んでいたのです。エウロパは木星の衛星であり、タイタンは土星の衛星なので、どちらも惑星とは異なります。
研究者たちの間で、その言葉がIAUに認められているよりも圧倒的に広い意味で使われているのは、単純に便利だからというだけです。
今回の研究を主導したセントラルフロリダ大学のフィリップ・メッツガー博士もこのように語っています。
「天体を分類すること自体がナンセンスなのかもしれません。
まともな説明もないまま『同一軌道上に他の天体があってはならない』という条件が決められ、研究者の間でも解釈が一致していません。
額面通りに受け取るならば、惑星などというものは理論上にしか存在しないのです」
冥王星は探査が難しいため 未だに星の実態のほとんどが謎に包まれています。冥王星の地位を巡っては今後も論争が続くでしょう。そして、我々はいつだって宇宙に注目しています。
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